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Hot HR vol.157 – エアラインに見る企業カルチャーが導く成長力

2014/06/09(最終更新日:2021/11/12)

最近、日本の空が騒がしいようである。4月には関西国際空港を拠点とする国内LCC会社が突如2000便超の定期便(5~10月)を欠航すると発表した。エアライン業界は慢性的なパイロット不足に陥っており、2032年までにアジアだけでパイロットが50万人不足すると言われている。先ほどの国内LCC会社もその渦中に巻き込まれてしまっているのである。

 

また、ひざ上15cmのミニスカートCAで話題を集めたエアライン会社は、その新型機の運航開始が難航しているようである。準備不足で国土交通省の事業認可が下りず、運航開始日を3度も延期しているのだ。航空ファンや業界からは批判や疑問の声も噴出し、度重なる延期が会社の信用失墜につながりかねない事態にもなっている。新型機A330は当初、3月25日に運航を開始する予定だったが、4月、5月、そして6月とズルズルと先延ばしとなった。広報担当者は「整備関係の規定マニュアルの作成やパイロットの訓練に時間がかかったため」とコメントしている。
これまでボーイングの機体しか使用していなかった同社では、整備方式も異なるエアバスの整備マニュアル作成やパイロットの訓練には、もちろん時間が必要である。しかし本来は、国交省航空局の認可基準をクリアするための準備時間をしっかりと確保し、認可の見通しが立ってから運航開始日を設定するのが業界内の通例だ。しかし今回の一連の流れを同業他社の幹部は「『まず運航開始日ありき』の印象が否めない」と指摘している。
同社は以前、そのサービス姿勢を取りまとめた「サービスコンセプト」が世間から注目をされたことがある。その内容は、「機内での苦情は一切受け付けません。不満のある乗客には消費生活センターへ連絡するように」といった内容が書かれており、その姿勢に世間では賛否両論が渦巻いた。表現内容に誤解を招く部分はあるかと思うが、自社のサービスの本質を見極め、サービス提供実務を行う現場従業員を守るためだとすると、これは十分許容できるものではないだろうか。しかし今回の件を通してみると、どうも同社はお客様、そして従業員ではなく、自社のビジネスメリットを優先する姿勢、価値判断に捉われているように見受けられる。
このエアライン会社には、ぜひもう一度自社が提供している価値と、誰にそれを提供しているのかを、見つめなおしてほしいと切望する。しかし決してありていの「お客様第一主義」を押し付けようというのではない。事実、米国には「従業員第一、顧客第二主義」を掲げて大きく成長したエアライン会社があるのである。

 

サウスウエスト航空はアメリカ合衆国テキサス州ダラス市を本拠地として、1971年にわずか3機のボーイング737機でスタートし、アメリカの航空業界に革命をもたらした格安航空会社である。同社はポリシーとして「顧客第二主義」「従業員の満足第一主義」を掲げ、従業員を満足させることで、却って従業員自らが顧客に最高の満足を提供する」という経営哲学を追求することにより、実際に高い顧客満足度を得ているのである。「乗客に空の旅を楽しんでもらう」ことを従業員に推奨しており、出発前に客室乗務員による型破りなパフォーマンスがあったりする。そして従業員が顧客にへつらうことなく良識を優先することを推奨しており、顧客が満足するための判断を従業員の裁量に任せる方針をとっているのだ。例えば従業員を侮辱する顧客に対しては「今後乗らなくて結構です」と躊躇なく他航空会社の利用を勧める。CEOのケレハーは、「『顧客がいつも正しい』と考えることは、上司が従業員に対して犯しやすい最大の背信行為」と述べている。そして同社はいまや全米に路線網を持つ大手航空会社となり、35年連続で黒字経営やフォーチュン誌で「働きがいのある会社」の全米企業ランキングトップとなるほどの成長を遂げた。

 

従業員そしてお客様からも喜ばれ、選ばれる同社の取組みは、パイロット不足問題への対処や、エアラインサービスの在り方を考える際にも非常に参考になるのではないだろうか。そしてこれはすべての企業経営にも通じる話でもある。成長を志向するすべての企業は自社が提供している価値はいったい何なのか、その本質を考え、そしてその価値が誰のために提供しているのかを考えなければならないのである。

 

最後に日本の空で非常に小さな組織でもがんばっている、学ぶべきエアラインを紹介したい。皆さんは天草エアラインをご存じだろうか。わずか39人乗りの飛行機、それもたった1機で頑張っている九州・天草を拠点とする地域航空会社である。かつての天草エアは、赤字続きの第3セクターの航空会社だった。しかし2009年に新たに奥島透社長が就任してから自社のサービスと組織風土を見つめなおし、社内改革や地域貢献の取り組み、さまざまなイベントを仕掛けるなど、地道な努力を続け、大きな変革を成し遂げた。2013年度は前年度に比べ1割強の増収となり、5期連続の単年度黒字も達成している。
天草エアは自社の価値がどこにあるのかを明確にし、そのサービスはお客様と乗務員の距離が近いことが特色である。客室乗務員は常に明るく、お客様へ気軽に話しかける。記念撮影も喜んで受けるほか、シートポケットには同社の客室乗務員全員のプロフィール紹介が入っている。これも客室部のアイデアで始まった。機内の読み物も独自色を前面に打ち出し、観光案内は客室乗務員が自ら取材してきた。社長自身も「客室乗務員の親しみやすいサービスでは、日本中で絶対に負けない」と豪語する。
そして今年1月に天草エアらしい遊び心あるサービスが始まった。1日12時間弱、天草エアの全区画である10区間をひたすら乗り続けるという運賃プランである。天草を出発し、12時間乗り続け、天草に帰るだけのプランである。しかし発売とともに口コミでコアな飛行機ファン層に広がり話題となっているのである。
自分達が誰にどんな価値を提供しているのか、それが明確になれば、小さな企業・組織であっても、できることは無尽蔵なのだ。業界の常識を打ち破り、型破りな成長へと導くのはこの企業カルチャーの明確化とその浸透なのである。

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