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『明るい未来を信じて勉強に励む東ティモールの若者達』<Hot HR ニュース4月号>

2015/05/11(最終更新日:2020/07/17)

【特集】東ティモール紹介レポートー教育の現状ー 『明るい未来を信じて勉強に励む東ティモールの若者達』

このレポートは21世紀最初の独立国である東ティモール(※ )において著者が所属する学生団体HaLuz(※ )が実施したプロジェクトや生活の中で学んだ現状をご紹介するシリーズである。今までのバックナンバーは下記リンクにて紹介している。
http://www.imajina.com/library/index.php?SearchCat=17

 

当連載では渡航中に見聞きした話を交えながら独立から12年たった東ティモールの現状を紹介している。前回よりMDGsという2015年までに達成することを目指されている世界共通の発展目標の中で中心的な項目としてあげられている「医療 、食事、教育に関する問題」に関して、順番に東ティモールの現状を紹介してきた。今回は教育編をご紹介する。
皆様の社会的問題への関心や企業の社会貢献事業として繋がっていければ幸いである。

 

▼東ティモール紹介レポート(教育の現状編)
いままでのレポートの中で、東ティモールが後開発途上国として抱える様々な問題点を指摘してきた。今回は国を担う人材を育てる役割をもつ教育分野について、東ティモールの現状をご紹介していく。まずは、全体的な概要からご紹介する。

 

東ティモールにも義務教育は存在しており、2013年に新たな教育制度となり統合された初等教育および中等教育である9年間(6歳~14歳)が義務教育に相当する。なお、義務教育の授業料は無料となっている。

 

しかし、この義務教育の段階でも見過ごせない問題が大きく2つある。1つは、授業料が無料であるだけで制服や教材費が支払えず学校に通うことができない子どもがいること。そしてもう1つは、紛争が終わり平和が訪れたのちの高い出生率(5.30人=ひとりの女性が産む子どもの数:2012年世界銀行)により、現在学校の数が生徒数に足りていないということだ。この2つ目の問題に関しては、多くの成長著しい開発途上国がしているように2部制をしくことにより、午前と午後で別れて生徒たちは授業を受けることが多い。

 

学校が2部制に分かれているため、授業がない時間帯生徒たちは、家の手伝いをしている。年下の兄弟の面倒を見たり、水汲みや料理の手伝いを行う子どもたちが主だが、中には親の商売の手伝いをしている子もいる。
地域によって親の教育に対する姿勢が大きく違っており面白いのだが、東ティモールの東側(紛争時ゲリラの拠点となっていた地域)などでは、親の教育を受けた割合が低いため教育の価値を見出せず家事手伝いを強制し学校へ行けない子どもが多い。一方、首都から南へ進んだ山岳部のコーヒーが収穫できる地域では、コーヒー豆の出荷による現金収入があるため他の地域に比べ裕福で、親の教育を受けた割合も高いため理解がありほとんど全員が学校へ通っている。また、この地域ではコーヒーによる収益を持ち寄った草の根的なファンドを持っており、村で勉強を頑張った子が大学まで行きたいと望んだ場合はそこから奨学金のようなものを出す。これには学力の審査などもあるが、この地域は首都から7時間も離れ電気もないような地域であり、そのような場所でこのようなファンド機能を持っていることには驚きを感じた。

 

次に、東ティモールの国勢調査によるデータから東ティモールの教育事情をみてみる。まず、進学率のデータを紹介すると各教育レベルの適正年齢の子どものうち、義務教育である小学校(6~11歳が適正年齢)へ通う割合が71.6%、前期中等教育(12-14歳)が23.7%、後期中等教育(15~17歳)が16.5%%、高等教育(18~23歳)が6.7%である。なぜ、適正年齢と述べているかというと、東ティモールでは多くの人々が留年や学校への通い直しをしており、例えば初等教育の中で女子の15%、男子の19%が留年をしている(世界銀行データ)。

 

これら進学の遅れの理由としては学校の数や距離の問題、性別の違いによる教育観の格差、長引く戦争の影響が考えられている。驚きのデータとして、後期中等教育にあたる15~17歳の子どもが通っている学校の種類を調べたところ、なんと28%が初等教育、50%が前期中等教育を受けていた。そのため、実際はもう少し改善された数の子ども(年齢別のデータはないが、実際は成人も学校へ通っていると考えられる)が学校へ行けていると考えてよい。

 

男女の間の就学率には大きな違いはなく、GPI(Gender parity index) も0.98であることからも男女の教育機会の均等がわかる。しかし、高等教育以降、特に18歳以降女子の就学率が大きく低下し始め男子の差が大きくなり始める。大学時点の男女別就学率(18~23歳)ではGPIが0.70(男性が多勢)である。また、地域差も目立ち始め、首都のディリに住む人々が71%、その他の人々はディリ以外に住んでいるということから、高等教育機関の施設が首都に固まっており地方部の人
まで教育が行き届いていないということがわかる。

 

性別および地域による教育の差は途上国に限らず、日本など先進国にも見られる問題である。特に東ティモールの現行の教育制度は歴史が浅いため、今後の発展に期待である。なお、上記の国勢調査は2010年に実施されたものであり、2013年に変更が行われたの教育制度とは若干の違いがあるため、最新の国勢調査の結果を待ちたい。

▼教育レベルの向上に立ちはだかる壁
いままでの話からすると特に義務教育時点において、途上国にしては東ティモールはなかなか高度な教育制度を抱えている。
実際、多くの子どもが教育を享受できているのは事実であり、数値的な部分では問題がない。
しかし、東ティモールにて高度な人材の育成が喫緊の課題となっており、それを阻んでいるのが言語問題である。

 

東ティモールの公用語はテトゥン語という現地で古くから使われていた言葉と、かつて植民地であった名残からポルトガル語が選ばれている。しかし、実際に教育をこれらの言語で進めていくにはそれぞれ問題を抱えている。

 

まず、テトゥン語は生活上の言語として使われてきており、口語であったためもとは文字などなかった。これにアルファベットを当て字することによって、現在は文字化している。しかし、問題はほかにもあり、生活上の言語である以上「数学」や「理科」など学問に当たる単語が存在しないのだ。

 

そのため、他の言語から単語を借りる必要が出てきており、テトゥン語の教材というのはとある国際支援団体により作られたものはあるものの、種類はほとんど無い。その代わりとして学校ではポルトガル語の教科書が用いられているのだが、実は問題が大きいのはポルトガル語の方なのだ。

 

本来ポルトガル語を使用してきた人々は植民地時代以降、ポルトガルなどに留学へ行ったり、政治の世界の中で会話に使ってきたエリートが多い。実際テトゥン語を理解する割合が約70%なのに対し、ポルトガル語を理解する人はたった5%だと言われている。

 

もちろん多くの教師もポルトガル語がわかるわけではなく、授業に苦労している状況だ。近年は義務教育でポルトガル語の授業を行っているため(そして他の科目もポルトガル語の教科書を用いている)、ポルトガル語を読んで理解できるという若者は以前より増えてきている。しかし、ポルトガル語を実際に話す例が身の回りにいないため、読むことはできても会話はできないという人が多い。

 

言語問題に関して、これだけで済めばいいのだが世代や地域によって問題は様々である。東ティモールには約30種類の言語があると言われており、主な理由としては東ティモールの地域柄(インドネシア近辺の島の多い海に囲まれている)、過去から海を介してマレー系やパプア系、ミクロネシア系などいくつもの起源を持った人種が集まっており、さらにその人種によって言語もまったく違う。

 

また、世代によっては(1975年以降のインドネシアの占領時代に教育を受けていた人々)東ティモール式の教育を禁じられており、学校の授業がインドネシア語によって行われた。そのため、中高年はインドネシア語が実質公用語となっている世代が多いのだ。ちなみに、テレビの番組のほとんどがインドネシアからの電波のものであり、人気番組はすべてインドネシアのチャンネルであるため若者もかなりインドネシア語を理解している。

 

以上の状況から、公用語にどれがふさわしいかという議論は尽きないのだが(実感の各言語の浸透率はポルトガル語<インドネシア語≦テトゥン語)、CPLP(ポルトガル語圏諸国共同体)という国際グループに属し、さまざまな政治および経済的恩恵を得ていることから、現状から変わることも大変難しい問題となっている。

 

▼これらの教育環境から大学へ進学するのはどのようなエリートなのか?
現在、東ティモールの中で高等教育機関としてあたるのが大学くらいであるが、私立大学がほとんどで現在国立大学はひとつしかない。この1つの大学の入学枠をめぐり、全国中の若者たちがしのぎを削るのだ。

 

その理由の1つはもちろん高度な教育を受け東ティモールという国を大きく発展させ良い国にしたいという思いである。東ティモールではまだまだ大卒者のボリュームが少ないため、特にUNTLという唯一の国立大学の卒業者が本当に国を担うような人材になっている現状がある。実際、東ティモールの若者と関わる中で、筆者と同じ世代の若者たちのほとんど全員が国を考え、より良い国にしようと勉強に励み、会話の中で国を発展させるテーマに多く触れていることは大変刺激となった。実際、UNTLに進学するということは地方部の人々にとって、英雄のようなことであり、かつて戦前戦後の日本においても東大合格者が地元の注目の的となっていたのと重なるのではないか。

 

もうひとつの理由は学費の面である。UNTLに合格すれば半期$30程度の学費であり、これが私立になると半期で$100やそれ以上となり、この数値が東ティモールの人々、特に地域の人々にとってどれくらいの数値かと考えれば死にもの狂いで勉強するのにも納得出来る。都市部で最低賃金(守られれば)$115/月もらえる人々と違って、地方部には自作農で現金収入などない人々が大勢居るのだ。

 

 

▼高等教育の現状と生徒の将来について
現在の東ティモールの大学は正直なところ授業の質は高いとは言えない。
授業内容はほとんどがインドネシア語によって行われており、ここでもやはりポルトガルはあまり使われない。また、教師が授業に来ないことも多く、高等教育のやり方に試行錯誤の状態が進んでいる。日本は10年以上UNTLの工学部の支援などを行っているなど、教育支援を通じた関係は力強く、技術習得用の機材の提供やパソコンなどの提供、また教員の派遣なども行っている。また、人材交流もさかんであり、日本・東ティモール相互において学生を派遣するプログラムがある。筆者も交流事業の一環でこのUNTLで訪れたことがある。
現在はUNTLで日本人大学生の受け入れが行われており、また日本の大学・大学院への東ティモール人若者の受け入れも今後より盛んになっていくことが予測される。

※UNTL(Universidade Nacional Timor Lorosa’e)。PC設備や工学部の機材など、国内トップレベルの教育環境が整っている。図書室も国内有数の書籍をもっているものの、日本の小学校ほどの広さ・書籍数しかない。

 

東ティモールの大学生と会話をした際に、彼・彼女らは東ティモールでの将来に若干の閉塞感を感じていることを教えてくれた。1つ目の理由は現状の国内の教育では国立・私立ともに不十分な教育環境であり、お金が許せばぜひ海外で学ぶ機会を得たいということ。2つ目は大学を卒業しても、相応な就職場所がないということである。政府など公的な機関へ勤めることには関心を示すことができるものの、現在の東ティモールにはホワイトカラーのような職の機会はほとんどなく高度な知識を活かす機会や良い収入・経験を得る機会にかけているのである。
一部の学生はインドネシアや韓国で職を経験し、そこで身につけた専門性やマネジメント能力を生かして、将来東ティモールで事業を立ち上げたいという。
愛国心の高い学生が多く感じられたが、高度人材の国外流出は大変痛手である。本当に東ティモールを良い国にするには、人材を活かす土壌も必要となる。

編集長プロフィール
加藤啓太(かとうけいた) 法政大学キャリアデザイン大学3年生。
1年間大学を休学し、2013年6月からイマジナにてインターンとして活動。2014年4月から復学している。イマジナでは主に資料作成やHotHRメルマガの記事を作成している。学生としてアジア最貧国の一つである東ティモールの支援を行う学生NGOで活動を行っており、「タイス」という現地伝統の織物を生産するコミュニティーの支援活動やiPadを用いた教育事業、両国若者間の交流活動を行う。他にもWAFUNIF、HCR+などの団体でも活動を行っている。

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