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多様性がはぐくむ、新しい組織のカタチ

2016.07.04

#イマジナ・ブランディングニュース

人手不足の企業は多い。大手企業も人が足りないとの声を聞くが、中小企業においては直近の日本商工会議所の調査で55%以上の企業が人手不足と回答した。業種ではサービス業の数値が高いとされているが、プログラマーやエンジニアといったIT関連技術職も同様に高く、各所で人材の争奪戦が繰り広げられている。採用に注力する企業が増えているためだろう。裏を返せば新卒学生や中途人材にとってはチャンスの多い状況と言えるが、採用する側としては厳しい状況下にある。

しかし、この人手不足の状況は景気の波によるものでなく、今後長年にわたり日本企業の恒常的な問題になっていくと考えられる。少子高齢化によって生産性人口が減少していくからだ。人口減少が与える影響を正確に予測することは難しいが、少子高齢化が確実にすすむ世の中において、採用基準に合致した人材を獲得し続けるのはより至難の業となるだろう。それに加え、人口減少による国内マーケットの縮小も避けられない。採用活動と並行し「生産性の高い」組織をつくる努力も不可欠だ。これら2つの問題は、多くの企業で避けられないものとなりつつある。
人は組織の要である。今後、企業はどのように人材を確保し、どのような組織や環境づくりを行えばよいのだろうか。

人口の減少や高齢化が進む状況下において成長力を高める方法は、主に3つある。1つは出生率の引き上げ。もう1つは外国人労働者の受け入れ拡大。そして最後は、労働力率の引き上げだ。どれも真剣に適切に対処すべき問題ではあるのだが、現在の日本では特に3つ目の労働力率向上を成長戦略の柱としている。

労働力率とは、15歳以上の人口のうち学生や主婦等を抜いて、どの程度の割合の人々が経済活動に参加しているかといった指標を指す。この数値の抜本的な改善を政府は画策しているが、そのカギは「女性の活用」にあると言っても過言ではない。これは現在の政府の方針でもあるし、世の中の流れとしても「女性が男性と同等に活躍できる職場」が求められているのは確かな流れだろう。

日本では15歳~64歳までの女性の66%が何かしらの職に就き賃金を得ているというデータがあり、この数値は米国よりも高い。しかし、その就業内容に関しては改善が必要である。一概には言えないが、企業によっては、結婚や出産というイベントにより女性のキャリアに「断絶」が生まれると考えがちなため、雇用側が重要なポジションを用意しないといった事態が発生している。また再就職に関しても課題がある。ある調査によると、出産後の職場復帰に関して8割近くの女性が意欲を見せるそうだが、実際に再就職ができたのはそのうち約4割。希望人数の半数以下だ。女性の活用は多くのメディアで騒がれているが、現実の雇用環境においては高い障壁がある。

しかし近年「女性の活用に積極的な組織が良い成果を残す」という意見が相次いで発表されている。創造性が求められる先進国のビジネス環境下では、男性も女性も混在している環境、すなわち「多様性を受容」した組織のほうが、結果的に組織活性につながったり、業績が伸びたりするという例が出始めているのだ。

米国の調査によると、全米トップ企業500社について女性役員が3名以上いる会社の方がそうでない会社より株主資本利益率、投下資本利益率が高いという結果が出ている。また日本の上場企業においても、女性部長の比率が高いほど、株主資本利益率が上昇するという調査もある。
また、もし就業率の男女差が解消された場合(女性が男性並みの雇用率となった場合)、国内総生産を約13%押し上げるという発表もある。それに加え女性の出産によるキャリア断絶という通説も、実測はむしろ逆で、就業率と出生率の間には正の相関が生じるという調査結果もあるのだとか。女性の活躍はいち組織のみの話ではなく、マクロ経済や少子化にも影響を与える大きな可能性があるのだ。

しかし先ほど申し上げた通り、女性の活用がカギと言っても現実には組織に組み込むことができないケースも多い。女性の活用に成功している企業や職場は、いったいどのように壁を乗り越えているのだろう。

P&Gは世界に先駆けて女性活用を推し進める企業の1つである。P&Gジャパンのスタニスラブ代表は、組織の多様化、女性の受け入れは外すことのできない経営戦略の一部であると語る。それは社員全員の潜在能力を最大限引き出すために必要な施策なのだ。
同社は多様性の維持と生産性向上を実現するために「制度」「スキル」「文化」という3つの観点からアプローチを強めている。
制度は多様な働き方、人材を受け入れるために作られている。これは月単位で勤務時間を管理できるフレックス・ワーク・アワーや、特別な理由がなくとも勤務場所を選択できるロケーション・フリー・デーの制定など、働きやすさと成果を追求した施策だ。
スキルの取り組みは、各社員の経験に合わせたトレーニングを就業時間中に受けられるというもの。例えば、女性の再就職後のリテラシー&スキル向上と、プライベートの時間確保の両立に貢献している。

そしてこの2つを実現するために欠かせない最後の項目が「企業文化の定着」だ。P&Gには、社員の多様性や違いをお互いに認め、尊重し、受け入れる文化が根付いている。そして、その定着にも決して努力を惜しまない。同社はPVP(Purpose、Values、Principles)という会社の目的、価値観をまとめたものを明示し、10万人近くいる従業員の「目線」と「心持ち」をそろえている。

「多様性の受け入れと生産性向上の両立は『制度』『スキル』、そして『文化』の3つによって支えられている」とスタニスラブ氏は話す。どういった企業でありたいか、という哲学を掲げ、それを文化として定着させる。文化を支える制度や仕組みをつくる。そしてそれらを維持する継続的な取り組みを行う。こういった循環があり、多様性と生産性向上の両方が実現できるのだ。同社は今年「働きがいのある企業」として3年連続1位に選出されたが、この結果は同社の取り組みが本物であることを裏付けているだろう。

これは何もP&Gのみに当てはまる事例ではない。女性の活用をはじめ、多様な人材を受け入れる「器の大きさ」は、今後どの企業も備えなければならないものとなっていくだろう。そうした状況下で、時代に取り残される企業となるか、時代を味方にしより大きな成長曲線を描けるかは、企業の持つ哲学とその浸透度合いによって大きく変わってくる。筆者は1社でも多く、後者に属する企業が増えてほしいと感じている。

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