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生き残りへ、企業の変化の為に必要なこと

2016/07/13(最終更新日:2021/12/09)

前回のテーマ「企業の生存には環境対応への変化が必要」に関し、変化の為に必要なことは何であろうか。
それは「同時に2つのことを進めること」すなわち、一つは今日の飯の種となる既存の事業運営、そしてもう一つが将来の事業の種を蒔いて育てることではないか。

実際、多くの企業がこの2つに取り組んでいる。例えば自動車業界では、ガソリン車の製造、開発、販売で利益を上げながら、次世代エンジン(その種類は各社異なるが)の開発、普及や自動化運転の研究開発に資源を割いている。
また社員の時間を、コアである検索・広告事業に7割、その周辺事業に2割、残りの1割は自由に将来のネタ捜しに使うというGoogleの「7:2:1」ルールや、よく引き合いに出される3Mの20%ルールなど、将来の事業の種探しを会社グルミで取り組むケースも少なくない。

将来の事業機会獲得にはM&A、社内ベンチャーも利用される。変化のスピードが加速する昨今、何よりもM&Aは成果を得るまでの時間の短さがメリットだ。ただ、買収後の事業取り込みに苦労し、期待通りの成果に至らないケースも多い。そこには、異なる企業文化の統合の難しさや、人材流出やブランド毀損リスクの存在が反映されていると考えられる。
最近の鴻海精密工業によるシャープ買収でも、すでにその兆候が見られるようだ。鴻海の狙いは、有機ELの技術と、消費者市場におけるブランド力と見られているが、思惑通りの投資効果を得られるのか、前途は予断を許さない。

一方、社内ベンチャーも成功へのハードルは決して低くない。しかし、社内の既存事業から切り分けながら、経営資源を利用できるメリットを活かせば活路が開かれる。
ある印刷会社に勤務する私の知り合いは、社内ベンチャーに従事しそれまで日の目を見なかった社内技術を基に成果を出しつつあるという。その要因には製品企画の段階で、ターゲット市場を、それまでのB2BからB2Cに変えたことにあるという。それまでとは視点を転換したのだ。
社内ベンチャーといえば、スピンアウトにつながるケースがあるが、ITベンチャーのハブ・シリコンバレーでは「スピンイン」、すなわち一度スピンアウトした事業をある程度成長した後に買い戻すことも頻繁に起きている。ちなみにこのスピンアウトとインを戦略的に利用して成長したのがシスコシステムである。

既存事業と新規事業の両立に話しをもどそう。その際に経営者の頭に浮かぶ疑問が経営資源の配分をどうすべきか、であろう。
その課題に呼応したフレームとして例えば、ボストンコンサルティングが提唱したPPMが挙げられる。
PPMが主に資金配分の目線である一方、やはり重要なのが人の配分と配置である。まだ先の見えにくい事業へは、兼任含め最低限の人員を割くのが定石だろう(よほど「博打」を打つのでなければ)。一方、事業の進展がある時に、どの段階でどれだけの人的資源をシフトして行くのか、その判断には熟慮とスピードの両立が求められる。そこで有用となるのが、人的リソースの正確な把握や配置計画策定を可能とする、整備された人事管理体制だ。
さらに重要なのは不確実性の高い事業の推進に欠かせないチャンレンジ精神であろう。保守的なアプローチはブレーキにもなりかねない。新規事業にはチャンレンジ精神と、独創性、情報収集力、企画力、行動力など事業創出に適した資質を持ち合わせる人材を登用すべきである。
そうした適材適所への入り口は、社員の資質と性格などの特性の把握である。その上で、そうした資質の発揮や、チャンレンジ精神の想起につながる相応の評価制度の設定が必要となる。

こうした人材資源を有効に生かすための一連のシステムこそが人材管理といえよう。昨今では「Talent Management」と表現されることが増えている。ちなみに新規事業が雨後の筍のように生まれるGoogleでは「People Operations」と呼んでいるらしい。

他方でやはり、ブランド力が、実績の乏しい商品が受け入れらるための後楯になることで、新規事業の離陸へ大きな浮力を与える。先ほど例に挙げた自動車の自動化運転なら多くの消費者は、その技術が如何に優れていようとも、ベンチャー企業の製品よりも、トヨタ、Google、BMWといった企業の製品を選ぶだろう。ここで高いブランド企業でも、恐らくそれぞれの企業の製品には異なる期待を持つのではないか。例えばトヨタなら移動手段としての信頼性、Googleなら比類なきユーザーフレンドリーさ、BMWならどこかにキラリと光る洗練さ、といった所であろうか。新規事業とはいえ、既存のブランドイメージからの逸脱は避けたい。

結局、変化に向け2つの事を同時にするためにも、人事・人材管理体制構築とブランディングが重要ということだ。

■筆者プロフィール
鈴木一秀
コンサルタント

■略歴
横浜国立大学 工学部卒
University of California Los Angels校及びNational University of Singapore 経営大学院修了(MBA)
モルガンスタンレー証券など日・欧・米系の投資銀行で約20年勤務
その後経営コンサルタントとして独立

■資格
中小企業診断士
証券アナリスト

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