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企業の長期存続には、固有の思想がある

2016/08/15(最終更新日:2021/12/17)

先日、流通・小売業を営むイオンの中核である総合スーパー事業において、人事制度刷新に関する発表があった。聞けば、転勤のない地域社員が店長や部長など幹部クラスの上位管理職に昇格しやすくする制度を来春に導入するとのこと。また年収の上限も現在より4割ほど引き上げ、管理職へ昇進したものには1000万程度の給与が設定されるそうだ。
地域に根差し就労している人材は、プライベートでは保育や介護といった役割を担っている傾向があり、正社員よりも給料が安い場合も多い。そういった特色を持つ地域社員に対し、長期的な人材育成と離職防止の観点から本制度を導入。単なる変更にとどまらず、イオンと地域のつながりをより強める意図もありそうだ。

このようにフォローを手厚くするイオンだが、実は同社は「地域性」を非常に大切にしている。それは同社の理念にも言葉が盛り込まれているほどだ。

「お客さまを原点に平和を追求し、人間を尊重し、地域社会に貢献する」これがイオンの基本理念である。またその説明として「イオンは、地域のくらしに根ざし、地域社会に貢献し続ける企業集団です」の記載が。日本全国に散在する「地域の人々のくらし」に貢献し続ける組織として永続していきたい、そんな想いがくみ取れる。(ちなみにイオンとはラテン語で「永遠」を表す)

同社の歴史は古く、創業は1758年にまでさかのぼる。初代代表である岡田惣左衛門が、太物・小間(太物は和服用の織物。小間は日用品や化粧品、装身具の類)の物商を四日市で創業したのが始まりだ。その後も屋号や社名を変え、時代の動乱を乗り越え現在に至る。実に260年近くの歴史を持つ、日本最大級の流通小売業者なのだ。

イオンの創業家である岡田家には「大黒柱に車をつけよ」という有名な家訓がある。これは「店の屋台骨を支える大黒柱に車をつけて、いつでも動かせるようにしておく」という意味であり、店を構えるのは「場所」ではなく「人」に対してであるというメッセージが込められている。現在の理念にも通ずる人中心の思想、かつ時代や人の変化に応じて店を移動し構えるという、同社の強さを象徴するような戒めである。商品を買ってくれるお客様がいてのこその商売であることを忘れないよう、代々にわたり受け継いでいる言葉だそうだ。

イオンの家訓のように、独自の哲学を持つ企業は多い。しかしそれが企業内で、10年、30年、100年と長年にわたり継承されていくことはあまりない。創業者が体現する組織の姿勢を表すその言葉は、伝える努力をし続けないとあっという間に消えてしまう。風化していったり「その教えは時代に合わない」と何かにつけて一蹴されたりしがちだ。

しかし、実は長寿企業こそ独自の哲学、教え、ひいてはそれらを反映した理念を大切にし、それに沿った行動を実践している。反対に、短命な企業や事業には思想を伝える努力が弱く、社会に対する使命感を持っていないことも多い。日常の実務では見過ごされがちな「企業理念」「大切にしたい考えや想い」などをきちんと明文化し、社員に伝え、次世代に伝える努力をしているかどうかが、短命企業と長寿企業の境目なのではないかと思えるほどだ。この「理念、哲学、想いの継承」は決して無視できない要素なのである。

日本は世界最多の長寿企業を持つといわれている。なんと創業100年以上の企業は全国に2万社ほどあるとか。内訳は200年以上が約1200社、300年以上が約400社、500年以上が約30社、1,000年以上が7社とされている。
しかしその反面、企業の生存率は低いものとなっている。ひるがえって創業後の生存率を見てみると、1年後に生き残るのは全体の40%、10年後には6%。そしてなんと、30年後には0.02%と言われている。長寿企業が世界一多く存在する反面、短命企業の割合も多いのだ。

企業経営は山あり谷ありなので一概には言えないが、100年続く長寿企業とそうでない企業の違いの1つに、伝えるべき思想、哲学、理念などの存在の有無、また実践の有無が確実にある。長寿企業を見てみると、まず間違いなく理念を持っている。次にその理念を忠実に守り、経営判断や日々の業務に活かしているケースが多い。
冒頭の人事制度も自社の理念を体現するために改変したのではと予想がつく。またイオンの前身のジャスコの経営戦略にも岡田家の家訓が繁栄されている。同社は主要都市のみに自店を展開するのではなく、全国に点在する「人」と「地域」にフォーカスをし、全国各地に出店を重ねた。その戦略が功を奏し、首都圏だけでなく各地方でもブランドを確立。現在の発展につながったといわれている。

また現在「ポケモンGO」が大ヒットとなっているが、その「ポケモン」の生みの親である任天堂も同様に、理念にそった経営を実践している企業だ。同社は「経営の基本方針」という言葉で「世界のユーザーへ、かつて経験したことのない楽しさ、面白さを持った娯楽を提供することを最も重視しています」と公言している。同社が業界のリーディングカンパニーであり続けることと、経営方針がこのような内容であることは決して無関係ではないだろう。ちなみに創業も1889年と古く、当時から花札といった遊具の製造を行っていた。

企業の長期存続と理念の関係は奥深い。それは決して定量的に論じることはできないかもしれないが、長寿企業に共通点があることは事実だ。理念、哲学を掲げること。それに沿った経営を行うこと。シンプルだが、奥深いものである。

ひるがえって自社には、このような理念、哲学、想いがあるだろうか。またそれらに沿った経営をしているだろうか。日常の些細な判断にも、それらは宿るものだ。日々の業務を行うなかで、あらためて自社が持つ理念を見直したいと考えた次第である。

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