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商品価値を高める、ブランドストーリー

2019/08/22(最終更新日:2020/09/30)

日本の各地で外国人観光客を見かけることが増えた。「インバウンド消費」「爆買い」といった言葉に代表されるように、訪日旅行者は増加している。特に直近1,2年の増加率は著しい。筆者自身も都内を歩いていると、より外国人を見る機会が増えたなと感じていたのだが、どうやら15年の訪日外国人数は前年比47.1%増の2000万人弱を記録したようだ。特にアジア圏からの来訪が8割弱を占めているとか。またそれに伴いインバウンド消費も増加の一途をたどっており、同年には前年比71.5%増の3兆5千億円弱を記録した。今後は東京オリンピックも控えているし、民泊関連事業も発展していけば、さらなる増加も見込めるだろう。

またインバウンド消費に加え、日本のブランドを海外へ発信、販路拡大をしていく動きも著しい。こちらはインバウンドの施策に対し、アウトバウンドのマーケティングと言える。実際に越境ECと呼ばれるようなネット上での売買取引も盛んであるし、BtoCの商品だけでなく、BtoBビジネスにおいても海外への販路拡大は多くの企業にとって重要な課題となっている。

インバウンドとアウトバウンド。国内市場だけでなく海外の購買者を視野にいれた動きは、今後規模を問わず必要になってくるだろう。現在は大手企業だけでなく、中小企業も積極的に海外展開に挑戦する時代だ。
しかし、いざ国外の購買者を対象としたとき、何を強みとし商品販売をしていけばいいか、判断に迷う方も多い。多くのメディアで言われているように、現代は「良いモノを作れば勝手に売れる」時代ではない。モノづくりだけでなく、戦略的にマーケティングを行っていかなければ取り残されてしまう時代だ。そのため、海外における販路拡大に成功する企業も多いが、失敗し撤退する企業も数多く存在するのは事実である。一体、成功企業とそうでない企業の違いはどこにあるのだろうか。

理由は様々であり、一概に言えない。しかし、成功企業に共通する要因はある。それは「商品のブランドストーリーの構築ができているかどうか」という点だ。これは非常に大事なポイントとなっている。

今から約30年前の高度成長期には、価値とは技術を指す時代であった。多機能かつ高機能といった「すごい技術」を組み合わせた商品が売れる時代であり、日本を代表するSONYやHONDAといったブランドは技術がとび抜けて優れていた。しかし時代が進むと、企業間の技術差は縮まっていく。そのため、次代では「デザイン的な価値」が重視されるようになった。高性能だけではない。技術にプラスし「見た目がオシャレでカッコいい」商品が店頭に並べられるようになったのだ。技術とデザインの総合点が、顧客にとっての価値となった。

しかし、そのような価値観も今後時代遅れとなっていくだろう。現在では技術やデザインといったプロダクトそのものが持つ価値だけでなく、プロダクトを取り巻く「ストーリー」が非常に重視されるようになっているからだ。

ストーリー。なぜその商品がつくられたのか。またその商品は顧客にとってどんな存在であり、今後どのような世界を創造していくのか。現代では商品を取り巻くエピソード、ストーリーが織りなす世界観が、顧客創造の担い手となる時代に突入しているのだ。

例えばアップル。同社はパーソナルコンピュータを市場に投入することにより「全ての個人が活躍できる世の中の創造」を目指した。また思想を掲げるだけでなく、商品づくりにもそれを反映するよう努める。故ジョブズ氏のこだわりは周知の通りだろう。その姿勢は信者とも呼ばれるファンを多くつくり、同社は一貫してブランド価値の高い企業として評価され続けている。

スターバックスも同様だ。現会長であるハワード・シュルツ氏はコーヒーの味や質といった商品機能で他社と競うのではなく「サードプレイス」という概念を提唱することで差別化を実現した。スターバックスが顧客にとって、家でも職場でもない第3の居場所となってほしい――。そういった想いがユーザーの共感を呼び、現在では約60ヶ国に18,000以上の店舗を持つ、世界最大のコーヒーチェーンへと成長した。

また日本でも同様に商品にストーリー性を持たせることで、海外での販路拡大に成功した事例がある。伊藤園が提供する「お~いお茶」だ。実は現在、同商品はベンチャー企業の集積地であるシリコンバレーで一番多く飲まれている「日本茶」なのである。

伊藤園のマーケティング本部販売促進部の角野氏はシリコンバレーに赴任する。米での販路拡大に頭を悩ませていたのだが、ふとした際に企業のエンジニアが飲んでいるものの代表が「エナジードリンク」であることに気づいた。
氏はこれを「緑茶に置き換えられないだろうか」と考える。しかし、当時のシリコンバレーで飲まれていたお茶と言えばシロップがたくさん入った缶飲料のみであり、習慣上、茶にもなじみがない。

日本人の趣向に合わせたものは不向きだと考えられていたが、氏は商品が持つ「機能性」に着目する。緑茶は健康的な日本人が古くから愛飲していること。砂糖が入っていないこと。そしてこのような側面を持ちつつもカテキンやカフェインが含まれており、エナジードリンクの代替として機能すること。「ナチュラル」「ヘルシー」というブランドイメージを持ち、商品は一気に広まっていく。
そして現在では、お茶と言えば「お〜いお茶」が直接指名されるブランドになった。グーグルのキャンパスでは、1カ月に6万本が消費されるほどにまで成長しているという。エバーノート本社の食堂では、冷蔵ケースに「お〜いお茶」が他の製品に比べ最も多く常備されているようだ。

同社はシリコンバレーのエンジニアたちに「お茶はクリエイティブサポートドリンクである」と問いかける。エンジニアのハードワークを助ける健康を害さない飲料であり、人間のクリエイティビティをサポートすると。

84年に誕生した「お〜いお茶」。当初はもちろんシリコンバレーのエンジニアをサポートするために開発されたわけではない。しかし商品の機能性に着目することで、他商品とは一線を画す、かつ潜在的なニーズに則したストーリーを構築。成熟商品でありながらも、さらなる販路拡大に成功した好例だろう。

販路拡大に悩む企業は多い。しかし、自社の商品が持つ強みや特長を改めて見直し、価値を再定義することで、新たなブランドイメージが構築できるのではないか。商品改善には莫大な資本が必要だが、ストーリーの構築は販売者の想像力がカギとなる。技術を磨くだけではなく独自のストーリーを付与することで、自社の商品にさらなる深みを持たせたい。

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