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お金では解決できない、M&A後の「ヒト」の問題

2016/09/20(最終更新日:2021/12/10)

先日9月1日、コンビニエンスストアをチェーン展開するファミリーマートと、小売大手のユニーグループ・ホールディングスが経営統合を果たした。昨年より話題になっていたニュースなのでご存じの方は多いだろう。業界大手同士が手を組む、大型のM&A案件である。これにより生まれるコンビニ店舗数は単純合算で約1.8万店となり、業界首位のセブンーイレブンの約1.88万店とほぼ拮抗する形となった。

ファミリーマートは日本のコンビニエンスストア業界で3位の規模をほこる。対するユニーグループ・ホールディングスは、小売店「アピタ・ピアゴ」やコンビニ業界4位の「サークルKサンクス」等を運営する持ち株会社だ。コンビニ業界3位と4位が手を組むことで、業界2位の規模を持つ大組織となった。1位の座を奪取する日は、そう遠くないかもしれない。

近年このように、M&Aにより売上や組織の規模拡大をはかる企業が増えている。この流れは一部の大手企業の話だけでなく、未上場企業や中堅、中小企業にも同様なようだ。少し前までは、M&Aは大手が行い、中堅中小企業は関係がないというイメージがあった。しかし、経営者の意識や考え方が変わりつつあるのであろう。もはやM&Aは珍しいものではなくなり、株式上場や海外展開等と同等に1つの経営手段として浸透している印象がある。

事実、M&Aそのものの数は増えているようだ。M&Aに関する情報を提供しているレコフの調べによると、リーマンショック後の2010年から現在まで、6年連続でM&A成約数は上昇している。昨年のデータを紐解くと、その数は2400件以上。ただこの数値は公式に開示があったもののみのため、公表されていない未上場企業や零細企業の案件を含めるとその数はさらに多い。毎日、日系企業が関与する組織や事業の買収、売却が何十件も行われているのだ。

M&Aの目的は企業によってまちまちである。「買う」側の企業は新規マーケットへの参入や既存事業の拡大が主な目的だが、「売る」側の企業はキャッシュや経営資源の獲得、赤字事業の売却から経営者の引退に伴う事業の承継まで、目的は多岐にわたる。特に事業承継を目的とした売却は、企業経営者の高齢化に伴い年々増加傾向にあるようだ。

規模拡大を狙う企業にとって、組織、事業の買収は有効な手段となりうる。すでにある資源を買うため、育成や市場参入に割く時間を省くことができるからだ。ソフトバンクや日本電産は、M&Aを活用し規模を拡大してきた企業の最たる例だろう。企業規模や業種にかかわらず、それは大きなインパクトとなりうる。

成功すれば買収側、売却側、双方に大きなメリットがあるM&A。しかし現実には、成約後にM&Aが失敗だったと振り返るケースも多くあるようだ。「こんなはずではなかった……」と後々になって頭を抱える経営者は、あとを絶たない。双方合意した契約のため一見問題がないように見えるが、どのような点に落とし穴があるのだろうか。

「M&Aはお金で解決できない部分が難しい」。これは知り合いのある識者が言っていた言葉だが、筆者はその通りだと思う。実は、M&Aを実践した経営者が抱える主な悩みの多くが、会計や財務といった種の問題ではなく、組織風土や文化の統合といった組織を構成する人(すなわちキャッシュでは解決できない部分)に起因するものなのだ。

確かに、前者はお金や時間をかければ解決できるものである。しかし、人に関する悩みはそうはいかない。ある日を境に違う組織の従業員同士が、同じ組織で働き始めるのだ。仕事のやり方や組織の雰囲気の違いなどをストレスに感じる場面が増えるのは想像に難くない。それが長期的に続けば仕事の効率は落ちるだろうし、最悪の場合、組織に馴染むことができない従業員の離職も考えられる。これは勤続年数にかかわらず起こりうることだろう。事業の成長を目指しM&Aをしても、その構成員がいなくなってしまっては本末転倒である。この手の問題は表に出てくることは少ないのだが、このような悩みを抱える経営者は枚挙にいとまがない。

こういった事態を避けるために、企業は何ができるだろうか。

まず考えなければいけないのは、買収側と売却側の理念、価値観の統合だろう。双方の経営陣も十分に吟味を重ねて統合に至っているので、自社と風土が近しい組織を選ぶ傾向にあるが、M&Aを機に新たな理念を構築するのも手かもしれない。もしくは理念をそのまま据え置くとしても、考え方や価値観を言語化し、従業員全体に理解、浸透させていく措置は必要になってくるだろう。このような対応を取ることで、従業員が抱えるストレスやギャップを最小限に減らしていくことができる。

またそれと併せて考えなければいけないのは、人事制度の構築や社内ルールの明文化だ。M&Aというと事業の親和性や成長性のみが注目されがちだが、これらの問題も決して無視できない。特に人事制度に関してはそのままでは、同じキャリアでも違う会社であったが故に賃金に差が生じる、また時間が経つにつれ業務実態にそぐわなくなっていくことが予想されるので、現況にあったものに刷新していく作業が必要になるだろう。後回しにされがちな問題ではあるが、労使間の信頼を高めるためにも忘れてはいけない事柄である。

M&Aによる組織再編。それは買収側、売却側の双方にとって明るく希望に満ち溢れたものであるべきだが、残念ながらそうはならないケースもあることは事実だ。特に人に関する問題はセンシティブなため、より懇篤な対応が必要である。経営陣が売上向上や組織の規模拡大ばかり見ていては、従業員、ひいては顧客の離反も招きかねないだろう。成約そのものはゴールではなく、その後の組織の成長がゴールなのだから。

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