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「働き方改革」で変わるもの、変わらないもの

2016/09/26(最終更新日:2021/12/10)

政府が「働き方改革」を推進している。今月2日、「働き方改革実現推進室」が内閣官房に設置された。こちらの開所式には安倍首相も出席をしており「働き方改革は最大のチャレンジ。困難も伴うが先頭に立って取り組んでいく」と話す。加藤働き方改革相は「スピード感を持って取り組みたい。内閣にとって大変重要な課題だ」と語気を強める。
さらに16日には「働き方改革実現会議」を新設。同会議は安部首相を議長に8人の官僚、ならびに民間の有識者を加えたメンバーで構成され、労使の双方にとって理解が得られ、実効性のある施策を議論していくとのこと。

かつての政府も取り組んできた働き方の改定。しかし、これまでは大きなインパクトを与えるほどの手立てを打ち出せていなかったのが実情だろう。だが同政権では本改革を経済政策の柱に据え、ダイナミックな変化を志向している。今までにない成果が期待できるのではないだろうか。

これに関して民間企業はどう見ているのだろう。政府主導の変革というと企業経営層は毛嫌いしそうなものだが、(意外にも?)肯定的な意見が散見される。
先日発表された日経新聞の「社長100人アンケート」では、多くの経営トップが働き方改革の政綱に期待をしているとの結果が出た。特に注目されている事項は「裁量労働制の拡大」「テレワーク・在宅勤務の促進」「脱時間給の導入」など。生産性の向上と柔軟な働き方を両立させるようなテーマに注目が集まっているようだ。すでに変化の兆しが見られる現代の雇用環境に、危機感を持つ側面があるのだろう。長時間労働や「気合と根性」といった精神論は時代の流れとそぐわなくなっている。このような環境下においてより一層の競争力をつけていくには、官と民の連携が必要だという認識なのかもしれない。

だがもちろん、項目によっては反対意見も見られる。例えば同一労働同一賃金。こちらに関しては経営者の多くが反対しているというデータがある。この提案は「あるべき論」から見ると、誰もが賛同するものであるが、古くからの経営者は「同じ仕事というのは一体どれだけあるのか」と疑問の念を抱いてしまう。それに「同一の労働を行っても成果の量や質に開きが生じるならば賃金で差をつけるべき」という意見も散見される。海外での取り組みや情勢、そして人事の仕組みを正しく理解できていない経営者たちにとって、「まったく同じ仕事でまったく同じ成果になる、という職務は一体どの程度存在するのか」という不安や疑問が生まれているのである。同一労働同一賃金の実現にはまだまだ取り組むべきことが山積していると思われる。

このように賛否両論ありながらも推し進められる働き方改革。具体的な設計と導入が進めば混乱は少なからず生じるだろう。同改革を追い風にして組織をさらに成長させていくには、一体どのような対応が必要なのだろうか。

政府の提唱と呼応するかのごとく、積極的に働き方を見つめ直している企業がある。リクルートホールディングスだ。
人材関連サービス大手の同社だが、かつてはハードな働き方で成長を実現してきた背景があった。しかし、時代は変化している。今では「働き方変革プロジェクト」という全社的な取り組みを行い、勤務スタイルの見直しを計っているそうだ。

今年1月、同社は他社に先駆けてリモートワーク制度を本格導入した。同制度は在宅勤務とも重複する点が多い。夫婦共働きが当たり前の現在において、育児や介護などの時間をどう捻出するかが議論されているが、リクルートはこれを独自のルールで取り賄おうとしている。
業種にもよるが、現代の労働環境においては自宅でできる仕事も多く「必ずしも社内でやらなければならないこと」はそう多くない。しかし、データの管理や部下のマネジメントなどに関してはリモートワークでどの程度カバーできるのか、疑問を持つ人も多いだろう。

同社はまず制度の推進にあたって、セキュリティポリシーを再設計した。社内でしか取り扱えない情報と外部に持ち出し可能な情報を切り分けると同時にイントラネットなどのシステムも活用することで、社内にいるのと同じ効率でリモートワークが出来る体制を構築。
前述のマネジメントに関しては現場から不安の声があがったようだが、試みてダメだったら新たな方法を考える、という柔軟な姿勢を提示することで現場を説得する。ダメでもともとで、もし課題が出てきたらどう乗り越えるか一緒に考えよう、というふうにスタートしたようだ。

同社は何故これほどまでに変革を率先するのだろうか。その理由の1つには、理念がある。リクルートでは「個の尊重」を重視している。入社した日から「何をしたい?」とメンバーに問うほど、個人の意思を大切にし、多様性を受け入れるカルチャーがあるため、本プロジェクトもその一貫であるというのだ。
通常だとできる限りの時間を仕事に充ててほしいと雇用側は願うものだが、同社では育児や介護、それに副業といった会社以外での経験が、個人の成長と知見の獲得につながると考える。仕事以外での経験が仕事での価値創出に繋がってくるという発想があるため、こういった取り組みにも柔軟に取り組めるのだろう。同社は創業当初から「人の育成」に強みを持つが、働き方に関しても日本のリーディングカンパニーとして、これからも走り続けていく。

働き方改革をどのようにとらえ、どう自社の発展に繋げていくのかは、非常に悩ましい問題である。しかしリクルートのように、理念や社風、文化と照らし合わせることで、強みを担保しつつ時代の趨勢に沿うことは可能だろう。むやみに政府の意見を受け入れる、または頭ごなしに反対するのではなく、どのように自社の特徴と融合していくのかを考える。それが本当の意味での「改革の成功」に繋がると思う。

3年後、5年後、10年後。人が働く環境は、どのように変わっていくのだろう。ただ確実に言えるのは、変化は確実に訪れているということだ。どうこの変化を受け入れるのか、どのように自社の文化とマッチさせていくのか。しっかりと考えていきたい。

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