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「色だけ商標」から見る、これからのブランド戦略

2017/08/15(最終更新日:2021/12/09)

ブランディング

今年3月のニュースである。「『色だけ商標』第1号、セブンやトンボ消しゴムに。特許庁が認める」。こちらは日経新聞に掲載された記事のタイトルだが、本件は商標における史上初の事例として多くのメディアで話題となった。

商標とは他の商品やサービスとの違いを明確にするための「しるし」のようなもの。ブランドの独自性を守り、消費者の誤認を防ぐ制度として確立しており、多くは名称、もしくはロゴなどの記号がその保護対象として認可されてきた。しかし数年前から、この定義を見直そうという潮流が生まれ始める。その結果、これまで保護されてこなかった「動き」や「ホログラム」、また「音」「位置」なども2015年から商標法の対象として認められるようになった。

そしてこのとき、同様に新たな対象となった「色彩」分野での商標取得第1号と第2号が、セブンイレブンのオレンジ、緑、赤の3色からなるデザイン、またトンボ鉛筆の消しゴムカバーに使われている青、白、黒の3色からなるデザインだ。

日経の記事タイトルにもあるが、色のみで構成されたデザインが商標として認められたのは今回が初めて。色彩に関する登録出願は2015年3月時点で500件近く寄せられていたそうだが、認可がおりたのは現在までにこの2件のみ。この数字から、その審査の厳しさと慎重さがうかがえるだろう。
特許庁は今回の認可に関して、両デザインともに30年以上にわたり使用され高いシェアを獲得している点、また積極的な宣伝を続ける企業姿勢や消費者の認知度が十分に高い点が決め手になったそうだ。

本件は企業がブランド戦略を考えるにおいて無視のできない事案だと言える。セブンイレブンやトンボ鉛筆のデザインを、特許庁が商標を通じて守る意思表示をしたと捉えられるからだ。これは他企業にとっては脅威だろう。近しい色合いやデザインを活用したブランド創造は異業種だとしても権利侵害を引き起こすかもしれない。配慮すべきは、もはや名前やロゴだけではないということだ。

今後、このような新しい形態の商標出願はより盛んになっていくと思われる。実際に欧米では色彩商標はもとより、音に関する商標も登録数が多い。日本でも人気のハーレーダビッドソンのエンジン音、またメルセデスベンツの重厚なドア開閉音などはその代表的事例だ。意外なところではウインドウズの起動音、またケロッグのシリアルを食べるときの音までもが商標登録されている。またこれらには研究開発にも多大な予算が割かれ、時間をかけて意図的につくり上げられていることも見逃せない特徴のひとつである。ポルシェでは50人ほどの音響デザイナーを、BMWでは「サウンド・クリーニング」の専門家を開発陣に配置し、ブランドの世界観を形づくる音を研究しているという。

ひるがえって日本企業はどうだろうか。音にまでこだわり抜くブランドはどの程度あるか、定かではない。しかし時流も相まって、新しいタイプの商標出願に重点を置く企業は増加していると思われる。今年2月、海外輸出に伴い前例の少ない「感覚・触感商標」で申請を行った菊正宗酒造もそのような企業のひとつだ。

「菊正宗」という酒の名称は、日本に住んでいる方ならば誰もが耳にしたことがあるだろう。同社がアメリカで商標申請した純米樽酒は「日本酒を酒樽からそのまま飲む」がコンセプト。容量は木升のそれとほぼ同じで、外観にもリアルな樽の質感を追求している。そのため中身はもとより、パッケージの色や形などのデザイン、木の手触りや香りにまで徹底的な思想とこだわりを持って開発したのが特徴だ。受け手の味覚だけでなく、視覚、触覚、嗅覚にも総合的に訴えかけることで独自の世界観を演出している。
ちなみに同社は国内においても別案件で商標を出願。前述した新しい商標である「動き」に関して、日本酒のビンを包む「紫の風呂敷が四方にひらく動き」を登録したことは話題となった。

様々なタイプの商標を見てきた。音や色での取得が当たり前となりつつある今、商標をブランディングに活かした事例はますます増えていくだろう。逆を言えば取得を実現した企業は、無形資産を守り、その後の戦略を優位に進められるということでもある。
しかし特許について、関心が薄い企業もまだまだ多い。特に中小企業では、ここまでの細かな点のこだわりや出願は発想が及ばないケースも多いだろう。それでも国内のみの競争であれば何とかなってきた。しかし、グローバル化した世の中ではライバルが世界中に存在する。例えば日本でも人気のある高級靴ブランドのクリスチャンルブタンは、アメリカで「靴底の赤色」を一部商標取得しているが、日本でも色彩商標を出願しているとか。このような事態は1つの時代の変化であり、日本企業への警鐘とも捉えられるのではないか。

商品やサービス開発に対してこだわりを持つ企業は多い。しかし、そこで生まれた無形資産を守り、経営に活用していく戦略を積極的に実行している企業はまだ少ないだろう。法改正や外資系企業の日本進出が進む今、行動を起こさなかった企業は足をすくわれてしまうかもしれない。
ブランドは、その商品やサービスが醸し出す印象の総合体だと言われることがある。五感を刺激する音や色、匂いなどにこだわり、それらの権利を守るというのは、唯一無二のブランドを築く第一歩の施策だ。覚悟、そして先手必勝の気概を持った企業だけが成長を実現できる世の中へと変わりつつあるのかもしれない。

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