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社員のモチベーションをあげる「従業員エンゲージメント」とは

2017/12/19(最終更新日:2021/12/16)

ブランディング

「従業員エンゲージメント」という言葉を聞いたことがあるだろうか。エンゲージメントを直訳すると「約束」や「従事していること」という意味になるが、従業員エンゲージメントは会社に対する「愛着心」や「思い入れ」を表す表現として主に使われている。最近ではさらに一歩踏み込んで「個人と組織が一体となり、双方の成長に貢献しあう関係が構築できている状態」というような意味合いでも、言葉が使われることがあるようだ。

マネジメントや従業員育成の現場で使われることが多いこの言葉だが、認知が広がるとともにより盛んに使われるようになってきた。その背景には、従業員の労働に対するモチベーションの変化があるようだ。

20代や30代の若手ビジネスマンの労働に対する動機が、「給与のため」というような外的要因から「仕事自体の面白さ」や「自分の成長を実感すること」など、内的なものに変わりつつある。この変化、またこの変化をマネジメントに生かそうという考えは2009年に発売された『モチベーション3.0 持続する「やる気!」をいかに引き出すか』という書籍で初めて指摘され、話題となった。そして発売から約10年経った今、日本では若手社員の離職率の上昇や雇用環境の流動化も相まって、その指摘の重要性はますます高まりつつある。

この本の著者であるダニエル・ピンク氏は、労働者のモチベーションの変遷を3段階にわけて説明をしている。第1段階の「モチベーション1.0」は生殖、食欲などの生存本能に基づくもの。これは「働かなければ自身の生命が危うい」という本能的な危機感に支えられたモチベーションである。次の「モチベーション2.0」はアメとムチ(報酬と罰則)によって駆り立てられるもの。これは成果を出したものは報酬が与えられ、反対に成果を出せなかったものは評価をしない、もしくはペナルティを与えるという体裁をとるものだ。これは仕事がルーチンワーク中心の時代には有効な動機付けの方法だった。しかし21世紀を迎えて人々の働き方や労働に求められるものが変化。それとともに機能不全に陥るようになってしまった。

そして第3段階の「モチベーション3.0」は、自分自身の内側から湧いて出るモチベーション。これは活気ある組織や社会を創るための新しいモチベーションの形だと言われている。前述した生存本能や信賞必罰のルールによってマインドが支えられているのではなく、仕事そのものに対して価値や魅力を感じてモチベーションを保つというものだ。

かつては「モチベーション2.0」を基軸としたマネジメントで、従業員エンゲージメントを高めてきた日本企業は多かっただろう。裏を返せば終身雇用制や年功序列での昇進というシステムは「自分も長くこの会社に勤めれば、相応のポストがもらえる」という報酬に対する価値観の現れとも言える。しかし、このようなマネジメント手法や動機付けが効かなくなっていることは明白であるし、先が見えない時代に突入した現代では終身雇用や年功序列という制度そのものが崩壊しつつあるだろう。

このような時代において、本人自身の内的なモチベーションを引き出すことは重要だと誰もが認識をしているだろう。しかし、この価値観の変化は最近の出来事。現在の日本企業のマネジメント層は40代や50代の年齢層が大半だと思うが、ほとんどの人々が「モチベーション2.0」を基軸にマネジメントされてきた世代ではないだろうか。自分たちが慣れ親しんだ価値観を捨てて新しい価値観を受け入れなければいけないとなったとき。どのようにして若手社員と向き合っていけば良いのだろうか。

内的な動機付けを行う手法のひとつに「組織から与えられる目標と自身の成長目標をリンクさせる」というものがある。組織は業績を上げるために、個々人に目標を与えると思うが、それらの目標を個人の成長や本人がやりたいこととリンクさせるのだ。そうすることによって一人ひとりに納得感が生まれ、従業員本人も「目標を上から押し付けられた」とか「会社が勝手に決めたこと」とかネガティブな発想を抱かず、「成長をしたい」という内的動機をエンジンとして、目標達成に邁進していくのだ。

この仕組みをうまく生かしている企業がある。星野リゾートを運営する星のやだ。同社代表の星野氏はかつて「熟年女性のマルチオケージョン(いつ誰と来ても満足できる)温泉旅館」というコンセプトでホテル作りを行った。このコンセプトは過去のデータと照らし合わせて作った戦略のため、理論的な正しさを帯びている。普通であれば意思決定がなされたら、決定の背景など説明をされず、従業員は計画の実現のため職務を全うすることを強制されるだろう。しかし、星野氏はあえて伝達の仕方を工夫することで「強制感」を出さなかった。

コンセプト決定した後、末端のスタッフも含めた全従業員を招集。なんとホテルに関するクイズ形式のミーティングを行った。このクイズを通して、ホテルのリピーター層や特に満足している顧客層が年配の女性客であることを全員で共有したのである。このようなプロセスを経て「熟年女性のマルチオケージョン温泉旅館」という旅館の最終的なコンセプトを全従業員に発表。企てた背景をストレスなく伝達することで、いっぺんに個々人の内的動機付けを行った。結果的にこのコンセプトは大成功。立案と実行をした翌年には客室稼働率が前年比で1割アップし、星野リゾートの礎が築かれたのである。

マネジメント層のなかには「モチベーションは個々で引き出すもの」という考える方もいるだろう。社会人なのだから、やる気は自分でコントロールせよという意見だ。しかし、本当にそれでいいのだろうか。この会社で働く意味やここで成長を遂げる意味などをともに考え伴走してくれる上司がいると知った部下は、自然と仕事そのものに価値を見出し、まっすぐに突き進んでいくようになるだろう。結局はそれが双方にとって良い結果につながるのではないだろうか。
部下の動機付けやマネジメントに悩む方々は多い。しかし、工夫の仕方はいくらでもある。ぜひ一度考えてみてはいかがだろうか。

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