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人口が減少し続けるいま、創意工夫が地域ブランドを生み出す。

2018/07/17(最終更新日:2021/12/09)

ブランディング

今後の日本を語るにおいて、「人口減少」という言葉は外せない。高齢化に関してはこれまでも多くの場所で議論されるようになったが、それに加えて人口減少が現実のこととして感じられるようになってきた。
実際にその影響は数字にも現れ始めている。3月30日、国立社会保障・人口問題研究所があるデータを発表した。2030年にはすべての都道府県で人口が減少し、2045年までに日本の総人口は1億642万人になるとのことだ。
2015年の日本の総人口は1億2,709万人。今後30年で、15年時点より総数は2,000万人以上減少することになる。また都市部よりも地方の方がその減少率は高く、2割、3割減は当たり前になると予想されている。加えて高齢化も進み、65歳以上の人口比率は首都圏でも確実に増えていく状況だ。この傾向は今後も長く続き、2065年の日本の人口は8,808万人。そのうち65歳以上はほぼ4割近くになるという。

このようなデータを見ると、今後の日本において経済の衰退は免れないように見える。人口減少、そしてそれにより経済の影響は決して避けることでのできない大きな問題として、我々日本人の前に立ちはだかっているのだ。

実際に少しずつだが、企業にその影響は及びつつある。近頃、人手が足りないと嘆く企業が増えている。好景気で良い人材が採用できないという側面もあるが、これも労働人口減少の影響を少なからず受けているのではないか。団塊の世代が引退しつつあるが、それを補うほどの人材の数がいないのだ。
これにより中小企業では、人手不足倒産(仕事はあるのに働き手が足りず、事業が継続できない状態)という、これまでになかったような倒産例が増加している。今後さらにその数は増え、「人がいなくて倒産するのはよくあること」という日本になってしまうだろう。企業はこのような状況に対して、どんな対策を講じれば良いのだろうか。

ひとつ、人口減少と向き合いながらも新たな価値を生み、ブランドを作りながら市場を創造している事例がある。岐阜県の飛騨・高山地域にある飛騨信用組合が取り組んでいる電子地域通貨「さるぼぼコイン」事業だ。

飛騨・高山といえば、観光で訪れたことのある人も多いだろう。自然豊かで伝統文化が根付くこの地域は近年、アニメ映画「君の名は。」の舞台としても脚光を浴びた。そこに本店を置く飛騨信用組合は、顧客数の減少を憂えていた。
信用組合や信用金庫といえば、地域住民や周辺の中小・零細企業が主な取引先である。飛騨信用組合もそれは同様。しかし今後、人口が減れば顧客数は減少することは目に見えている。信金全体を取り巻く問題であるが、預貸業務だけでは今後生き残りは厳しいと考えたのだ。
そこであるひとつの事業に取り組む。1円を1コインと交換できて、地元商店街での買い物、ならびに各種決済にも活用できる日本初の電子地域通貨「さるぼぼコイン」を開発したのだ。

このコインを発行した目的について、理事長である大原氏は「地域がこのコインを決済に使えば、他の地域に現金が流出することを防ぐことができる。人は都会にでても、お金を流出させないことで、なんとか地域を活性化できないかと考えた」と、メディアで語っている。先進技術であるブロックチェーンを用いた仮想通貨の仕組みを活用し、地元でコインを開発。独自の経済圏を地域で作ってしまおうというのが同社の考えていることだ。実際、決済の形も非常に簡単でスマホアプリをダウンロードすればすぐに使えるようになっている。
「銀行は採算が取れない地域から撤退することもできますが、信用組合は逃げ場がありません。地元経済が縮小すれば一緒に衰退する運命共同体です。だからこそ、私たちの最重要課題は、地域経済を育てて持続させることなのです」と、同社社員はメディアで語るが、この言葉から本事業にかける熱意が伝わってくる。

またそれに加えて飛騨信用組合は、地域活性を目的として活動する組織・人を支援する地域特化のクラウドファンディング「FAAVO飛騨・高山」を立ち上げたり、それと並行して「飛騨・高山さるぼぼ結ファンド投資事業有限責任組合」「飛騨・高山さるぼぼ結ファンド2号投資事業有限責任組」を立ち上げたりしている。地域で事業を行う人を積極的に後押しする仕組みを整えているのだ。

実際にこれらの取り組みは形になりつつある。2016年春、これらの仕組みを活用して屋台村「でこなる横丁」がオープンした。でこなる横丁は街のにぎわいを再生することを目的として作られた「遊び場」である。横丁内には飲食店を中心として、20軒程度の店舗が軒を連ねる。でこなる横丁ができる以前、大半の店は午後5時頃に店を閉めていたため、観光客が外に出歩くことが難しかったそうだ。しかし、横丁が新たにできたおかげで観光客はナイトライフを満喫したり、地元の人との交流を楽しんだりすることができるようになった。

これらの取り組みは、今後の日本を考えた上で大きなヒントとなるだろう。飛騨・高山地域の人口は約12万人。決して街に住む人々の数は多いとはいえないが、先進技術を活用し、ほかにはない地域ブランドを形作りつつあるのだ。
人口減少はもはや、避けられない「現象」である。それならばいっそ、受け入れた先の手立てを考えることが早急に必要なのではないか。自社だけでなく、地域そのもののブランドを変え助けようと考える飛騨信用組合の取り組みは、これからの私たちの行く先を考える上で大きなヒントとなるだろう。

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