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クラフトボスに見る、効果的なリブランディング

2019.10.17

#イマジナ・ブランディングニュース

突然だが、あなたはコーヒーを飲むだろうか。

現在、世界中でコーヒーの消費量が増えており、日本でもそれは同様だという。調べてみると、世界のコーヒー豆の消費量第1位はルクセンブルク。一人当たり年間2844杯程度の量を消費している計算になり、日数で割ると1日平均8杯のコーヒーを摂取しているという。日本は第29位。年間340杯分のコーヒー豆を消費。1日約0.9杯飲んでいる計算になるらしい。

消費の機会は、オフィスで入れたり、喫茶店でオーダーしたりと様々だが、近年では、コンビニのカウンターでコーヒーを入れる、「カウンターコーヒー」の需要が急伸している。価格は大体100円〜180円前後。それぞれのコンビニでマシーンや豆にこだわりを持って提供しており、味も驚くほどおいしい。最初に導入をしたのがセブンイレブンだが、瞬く間に利用者が増え、他コンビニも相次いで参入した。現在では一時のブームに終わらず、定番商品となった感がある。混雑時には列ができるほどの人気ぶりだ。

それに対して、だんだんと需要に陰りが見えつつあるのが缶・ペットボトルのコーヒー市場だ。売上自体は平行に推移をしているが、特に自動販売機やコンビニで売られているソフト缶のコーヒーの売上は減少傾向にあるという。
カウンターコーヒーと缶・ペットボトルコーヒーの違いは、その鮮度だろう。カウンターコーヒーはその場で豆を挽いて提供しているため、工場で詰められた缶・ペットボトルコーヒーはどうしても劣ってしまう。価格も同程度なので、鮮度が高くおいしいカウンターコーヒーにユーザーを取られてしまっているのだ。

しかし、そのような状況はお構いなしと躍進している缶コーヒーブランドがある。それが「BOSS(ボス)」だ。
サントリーが出しているBOSSは、多くの人が知っているだろう。本ブランドが市場に登場したのは1992年8月。それまで製造・販売されていた缶コーヒー「WEST(ウエスト)」シリーズに代替する形でローンチされた。前述の通り、どうしても缶に飲料を詰めると味が落ちてしまう。そこで「完成度の高い缶コーヒーを作る」という目標を掲げ、開発を開始し、出来上がったのがBOSSだった。

BOSSはそのクオリティが評価され、ご存知の通りロングセラーブランドとなった。ブランドコンセプトは「働く人の相棒」。パッケージにパイプをくわえた男性のロゴマークは、「男らしさ」を強調しており、外回りの営業マンや技術職の男性社会人を中心にその人気は広まっていった。先ほど、缶コーヒー市場に陰りが見えると言ったが、実はBOSSに関しては例外で、発売から現在に至るまで、毎期連続で増収を続けているという。

数字だけ見れば特に問題がないように思えるが、サントリーはカウンターコーヒーの台頭や缶コーヒー市場の陰りに危機感を感じていた。BOSSが登場した27年前と比べ、労働環境は劇的に変化している。BOSSブランドも変えていかなければ……。そこで市場調査を行い、新たな商品を投入することで、さらなる需要を伸ばしていこうと考えた。

まず、27年前と比べて変化したのは、ITワーカーの増加だ。パソコンを前にして、デスクワークをする職種のビジネスマンは年々増え続けている。こういった方々を支える商品を作る製品を作れないかと画策した。
そこで、その代表格とも言えるITエンジニアに市場調査のヒアリングを重ねると、ある事実が浮かび上がってくる。
業務の最中、エンジニアはあまり人と話さないせいか、「人とのコミュニケーション」が希薄になるのだという。プロジェクトごとにチームを組むので、同じ職場に留まらない人も多く、社内では挨拶をしない人もいるほどだとか。

しかし、普段どんなものを大切にしているものを聞くと、「おじいちゃんが使っていた万年筆」や「友達の革職人が作ってくれたベルト」など、「人肌感のあるもの」に重きを置いていることがわかった。普段、人と離れた仕事をしている反面、個々人にフォーカスするとアナログなものを大切にしているという。この発見を製品づくりに活かせないかとサントリーは考えた。

そこで生まれたのが新しいBOSSのブランド「クラフトボス」だ。クラフトボスは、BOSSブランドながらも、ペットボトルの容器で販売。デザインも剛健質実なイメージではなく、丸みを帯びたパッケージとロゴデザインにしている。

こちらに関してサントリーは、あるメディアで「ITワーカーの求める<人肌感>は、缶では出せないため、親しみやすいデザインを目指した」と語っている。
また事前のヒアリングにおいて、若いユーザーに缶コーヒーのイメージを聞いたところ、中身が古そうとか、中身が見えないからおいしくなさそうという意見が上っていたという。要は若い世代にとって、缶コーヒーは「缶詰」と同じ印象なのだ(驚きである)。それを打開すべく、あえて今までにない「中身の見えるペットボトルでのブラックコーヒー」を開発した。

味に関しても今までのBOSSとは違い、酸味や苦味を抑えたかなり飲みやすいテイストになっている。実は、コーヒーの味が苦手だが、眠気を覚ますために嫌々飲んでいたという層が一定数いたのだ。そういった方々でも飲みやすいように、風味を残しながらも若干物足りなさを感じるほどの味にすることで、「デスクでゴクゴクいける」コーヒーを作り上げた。このクラフトボスは結果的に大ヒット。予想を大きく超える出荷数を記録しており、コーヒー以外にも商品ラインアップを拡充している。

これは、ブランドのメンテナンスやリブランディングを考えた時に、非常に参考になるケースではないだろうか。これまでのBOSSという名称や「働く人の相棒」というコンセプトをそのままにしながら、あえてこれまでとは正反対の発想を積み重ねていく。そうして時代にあった商品をつくり、ブランドを新たな段階へと引き上げたのだ。

今回の例は、「大手飲料メーカーの資本力があったからできることだ」と考える人もいるかもしれない。しかし、クラフトボスの事業開発やブランドに対する考え方からは多くのことが学べるのではないだろうか。これまでの資産を生かしながらも、全く別と言える商品を作ることも可能なのだ。
私たちにも生かすことのできる教えが、ここには数多く潜んでいるように思う。クラフトボスを飲みながら、そんなことを考えていた。

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