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ティファニーに見る、挑戦と失敗のブランド戦略

2019/12/12(最終更新日:2020/09/30)

ブランディング

ルイ・ヴィトンがティファニーを1兆で買収

先日、服飾や化粧品、また時計や宝飾品関連ブランドも傘下に持つ世界最大のファッションコングロマリットであるLVMHが、ジュエリーブランドのティファニー(Tiffany & Co.)を買収した。買収額は163億米ドル(約1兆7,700億円)。世界でも非常に規模の大きいM&Aである。

LVMHの正式な名称は「LVMH モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン」。フランスに籍を置き、1987年に、ルイ・ヴィトンとモエ・ヘネシーの両社が合併して誕生した。前述の通り、その規模は世界一を誇り、ティファニーの買収により年間の売上総額は約6兆円になる。2位のスイスのリシュモングループや同じくフランスのケリンググループが売上約2兆円であることから、その規模の大きさがわかるだろう。メディアによる報道だと、「買収目的は手ごろな価格帯を揃え、若年層にも人気の高いティファニーを傘下に収めることで宝飾部門を強化する狙い」とあるが、これはおそらく間違っていないと思う。LVMHは世界最大の売上を誇るが、宝飾関連のブランドは弱い。ヴァン・クリーフ&アーペルやブチェラッティを傘下に持つ、3大ラクジュアリー企業の一角、リシュモングループや、カルチェなどの後塵を拝しており、ここで一気に差を詰めたい意図があるのだと思われるからだ。

ティファニーのブランド戦略は本当に正しいのか?

さて、このティファニーだが日本でも非常に有名である。日本に負けず劣らず、生まれの地であるアメリカでも人気が非常に高い。先進国の日本とアメリカの両方、しかも年齢層を限らずファンの多いブランドということで、マーケットの裾野はとても広いのが特徴だ(この点も、フランスの企業から見て買収に値する魅力があったのだろう)。クリスマスが近づいてきたが、恋人へのプレゼントに購入を考えている方も多いのではないだろうか。

そのようなティファニーだが、同社のブランド戦略は正しいのか。疑問を持つことが度々ある。
ティファニーの創業は1837年。地元で人気が爆発し、1940年にはニューヨークの5番街57丁目に本店を移転している。この店が、オードリー・ヘプバーンが主演した映画『ティファニーで朝食を』の舞台になったことで有名となった。そして日本では1980年代に、流線のハートモチーフを使用したデザイン「オープンハート(Open-Heart)」が大ブームに。バブルに向かい、飛ぶ鳥を落とす勢いでもあった日本の経済環境は、ティファニーブランドの成熟を後押ししたのだ。

この頃から、ティファニーはさらにブランドを拡大しようと、比較的安価な価格帯のシルバー関連ジュエリーから、ダイヤモンドなどの高価なハイジュエリー、また文具、食器と取り扱う商品を拡大していく。いわば、「ライフスタイル」全般に及ぶ商品取り扱いを始めたのだ。

しかし、このブランド戦略は果たして正しかったのだろうか。

高級ブランド「ハリーウィンストン」と「ティファニー」のブランド戦略の違い

他のアメリカのラグジュアリーブランドといえば、ハリーウィンストン(Harry Winston)が有名だが、同ブランドはダイヤモンドの質にこだわり続け、宝飾品のみを作り続けている。その結果、アメリカはもちろんのこと、ヨーロッパでも認められ、ラグジュアリーブランドの仲間入りを果たすことができた。今ではハリウッドセレブがこぞって身に着けるブランドに育っている

(余談だが、ラグジュアリーと言っても、アメリカには貴族という特権階級が存在しない。そのなかでも宝飾品だけに特化し、ヨーロッパの貴族が身に着けるようなブランドに成長させた背景には、非常に緻密な戦略と努力があったのだろう)

この2ブランドの戦略は対照的である。ひとつはブランドが広く認知され、強固になった段階で、様々な分野に商品ラインナップを拡充し、売上を伸ばす。もうひとつは、ある分野に特化し、ひたすらその品質を磨き続けることで、その地位を強固なものにする。
前者の戦略のリスクは、多彩な商品ラインナップがブランド毀損につながる可能性を含んでいるということだ。今でもそうだが、ティファニーはこの時期になると、数万円〜数十万円もする話題作りを狙ったような「珍品(純銀製の毛糸、ストロー、分度器等)」を販売している。話題にはなるが、果たしてこれらが、ブランド力を高めることにつながっているのだろうか。

実際、ここ数年の売上だけを見ると、ティファニーの業績はあまり芳しくない。そのような最中にM&Aの話が舞い込んだのは、独立系ブランドであるティファニーには渡りに船だったのだろうか。
しかしその反面、前述のオープンハートが日本の芸能界、とくに若手女優を中心に人気が再燃していたり、最近では「安くて流行っているものではなく、高くとも長く使えるものを選びたい」というサスティナビリティを意識した考え方が根づいたりしつつある。これはティファニーを含む高級ブランドには、追い風となる出来事であると言えるだろう。このような状況のなかで、果たしてどのような舵取りを行っていくのが正解なのだろうか。

経営において戦略を考えるとき、とくにファッションや宝飾関連といった業界では、ブランドが及ぼす影響が強い。自身の業界に関係がなくとも、そのブランド戦略を紐解くと、何か大きなヒントが眠っているのではないだろうか。そこでの学びを、自身の会社の舵取りに活かしていきたい。

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