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「酒飲みのテーマパーク」に学ぶ、ブランディングの成功事例

2020/01/09(最終更新日:2020/09/30)

ブランディング

2020年はブランド価値向上のチャンス

新年、あけましておめでとうございます。

2020年、そして令和2年となり、新たな年が幕を開けた。正月休みも長く、今週から仕事初めという方も多いと思う。
今年の始まりは、ニュースに事欠かなかった。例えば、昨年の12月には24,000円台の値をつけた日経平均株価が、1月に入り急落。今年初の取引となった6日の東京市場では、19年末比451円安と大きな下げ幅を記録した(歴代4位の下げ幅だという)。この背景にはアメリカとイランの衝突がある。中東情勢の悪化は日本も他人事ではなく、今後も決して目が離せないだろう。
その反面、明るいニュースとして今年は東京オリンピック開催年というのがある。これを機会に、世界に向けて、どう日本をPRし、日本という国のブランド価値を高めていくか。日本はその手腕が試されているだろう。今年1年がどのような年になるか、とても楽しみだ。

 

時代への柔軟な対応で成功したブランディング事例

さて、そんな2020年だが、政府は本年を「デジタル元年」と位置づけた。
「なぜ元年?」と疑問に思ったが、GAFAの台頭やAI/5G時代に備えて、デジタル関係の法整備を進めていく年だからだという。これは時代が大きく変化していることを、(腰の重い?)日本政府も、肌で感じているということなのだろう。
このように様々な変化の波が迫るなか、「変わらなければいけない」と考える一方で、「なかなかうまく、過去の成功体験から脱却できない」と感じている企業も多いのではないだろうか。とりわけ日本には古くから続く企業が多くあり、その長く壮大な歴史が変化の「足かせ」になっているケースも少なくない。「伝統」「自社のやり方」は、アウトプット次第で強みにもなれば弱みにもなってしまう。これまでの積み上げてきたものを守りながらも、時代の変化に柔軟に対応をしていくにはどうすればよいのだろうか。

伝統を大切にしながらも、時代に合わせたビジネスを構築し、新たな顧客を開拓している企業は多くある。そのひとつの事例が、石川酒造株式会社だ。

石川酒造の創業は1863年。東京福生市に会社を構える同族経営の企業で、石川家の当主は代々「彌八郎(やはちろう)」の名を継いでいる(現社長の石川彌八郎氏の幼名は「太郎」。父親が亡くなり、襲名)。石川家では農業や林業など様々な事業を行っており、日本酒製造もその一環として1880年にスタート。以来140年にわたり、日本酒を造り続けている。
しかし、ご存知の通り日本酒のマーケットは縮小ぎみだ。実際、日本酒の消費量は1973年をピークに下がり続けている。さらに近年では若者のアルコール離れ、また飲料の多様化の影響を受け、業界全体は逆風にあえいでいるのが実情だ。

そのような時流のなかで、石川社長は「『いい日本酒造り』に専念するのはやめよう」と思い立ったという。品評会で賞を取るのもいいけれど、お酒が好きな人はみんなでワイワイ飲み食いするのが好きなだけで、専門的な品評をしたいのではない。味のみならず、場の雰囲気やサービスなどの環境も含めたものが、自分たちの提供する付加価値なのだと考えた。
そこで、「伝統を残しつつ、そこから脱却する」ために、新規事業を立ち上げる。そのひとつがビールの製造販売。またそれと合わせてレストランもオープンし、卸売のみでなく、料理と合わせた提供を実現した。これらの施設はすべて酒蔵と同施設内にあり、そこには酒・ビール造りの史料館も併設している。酒やビールについて知ってもらい、食事を楽しみ、最後に日本酒を買っていただく、という一連の流れがこの施設内で体験できるのだ。これはまさに、近年言われ続けている「モノからコトへ」「体験のブランディング」といったことを体現していると言えるだろう。

 

「酒飲みのテーマパーク」で独自のブランド価値を構築

またこれだけではない。グローバル対応にも力を入れることで、外国人観光客が訪れても満足のいくコミュニケーションを実現している。
福生市内には米軍基地があるが、そこから見学ツアーの申し込みがたびたびあったという。そこで2011年頃から英語スタッフを配置。「インバウンド」という言葉が使われるようになる前から、英語対応を実施していた。そのような地道な施策が功を奏し、外国人の見学客は年々増加。現在では来場者の2割程度を占めているという。

石川酒造は、「お酒を楽しんでほしい」という想いを体現した自社のことを「酒飲みのテーマパーク」と呼ぶ。たんにお酒を提供するのではなく、酒飲みが楽しめる「場」を提供することで、独自のブランド価値を構築しているのだ。

石川酒造の取り組みは、事業の強みをうまく見定め、成長を続けているブランディングの良い事例だろう。酒造りという最新テクノロジーとは対極にある事業だが、そこに付加価値を加えることで領域を広げ、縮小傾向にある市場のなかでも成長を続けられると教えてくれた。日本酒をはじめとしたものづくりは、とくに「変化し難い」業態だと思われている。しかし、時代に求められているものを見定め、行動に移すことで、変化を促すことも可能なのだ。

2020年は世界も、日本も大きく変わる年になると思う。時代の激流のなかでどのような舵取りをするのか。今一度、考えてみたい。

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