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組織において、消えゆくものと残されるべきもの

2016/02/01(最終更新日:2021/12/10)

先日、とあるWebマーケティング会社の代表と雑談していた。
創業10年に満たないネット広告代理店だが、この業界では老舗である。その方は今でも第一線で活躍をしているのだが、Webマーケティング業界の現状に関してこんなことを言っていた。

 

「ぼくらの業界って3ヶ月に1回くらい、新しい手法や概念が出てくるんですよ。我々も追いついていくのに精いっぱいなんですけど、半年もしたら聞かなくなる言葉も多い。だから何か新しいものが出てきたときはすぐに飛びつかないで、3ヶ月くらい寝かしてみる。3ヶ月後も何かと聞くようだったら、はじめてそのとき勉強するんです」とのこと。
冗談交じりに話をしていたのだが、業界のプロが飾らず、あっけらかんと本音を語るその姿勢に筆者は思わず笑ってしまった。

 

Webマーケティング業界のサイクルは早い。マーケティング手法に限らず、エンジニアの持つ技術でさえ、4,5年も経てば使い物にならないということも少なくない。
また現在、世界のインターネット使用率が右肩上がりで伸び続けていることに伴い、あらゆる国の学術機関や民間企業が関連分野の研究を進めている。インターネットは物理的な制約を受けにくいため、技術伝搬も他業界に比べ格段に早い。そういった状況において、同業界の概念や手法は、多産であり多死の傾向があるのだろう。

 

しかし、スピードには違いがあるが、多くの概念が生まれ消えていく傾向はインターネット関連ビジネスに限ったことではなく、あらゆる業界や学問の世界に共通している。
そしてまた逆に、多産多死の波に呑まれず、時間の流れと歴史の重圧に耐え残った概念は、その領域における基本的事項かつ重要な教えとなっている場合が多い。

例を挙げてみよう。今ではマーケティングの基礎用語となっている「マーケティングの4P」という概念は、1960年に生まれた。もともとは学術論文に記載されていたものであったのだが、いつしか販売活動の現場で活用されるようになり、そのうちビジネスマンの基礎用語となり…といった形で、情報は広く深く伝播されていった。そして誕生から56年が経過した今でも、その教えは実社会で十分に活用されている。

 

当時、似たような概念やマーケティング関連の言葉はたくさん生まれていたはずだが、今の時代まで残っている、かつ影響を与え続けているものはそう多くないだろう。「マーケティングの4P」は突出して抽象度が高く、あらゆる現場のニーズに耐えうるものであったため、今の時代でも販促活動の基本事項として認知されているのではないだろうか。

 

上記のように、どんな領域にも時代の変化を経て「残り続けるもの」と「消えていくもの」が存在する。しかし、その違いは時間の経過を待たないと見えてこないことが大半だ。

 

組織における文化でも同様のことが言えるだろう。文化は生まれては消えてゆく。
しかし、会社組織によっては、新たな風が取り入れられない閉じた空間であるため、効率的でない、また当事者でも意味が見いだせない習慣も、きちんと伝搬され残り続けてしまう場合がある。
資本主義の世界では、ニーズのあるもののみが残り、ニーズのないものは淘汰されていく。時間の流れに沿って、概念や考え方の新陳代謝が自然に促されるのであるが、会社組織ではそれが促されないことも多い。良き慣習が残り続けているのなら良いが、そうでない慣習が残っていると、長期的に見て、組織にとって悪影響となってしまうこともある。

 

良い慣習を残し、そうでない慣習は減らしていく。
会社のDNAとして受け継がれるべきものを明確にし、確実に次に伝えていく。それにはどのような施策が必要なのだろうか。

 

受け継がれるべきものの代表例は、何よりもまず「理念」が挙げられるだろう。経営理念しかり、事業理念しかり、根幹の考え方が社員に共有されていない限り、展開される事業はすべて根無し草となってしまう。
「何を当たり前のことを」と思われるかもしれないが、この「理念の共有、共感」を全社員間で実行するのは、意外と難しい。

 

理念は忘れてはいけないものではあるが、時間とともに風化しやすいものでもある。
例えば転職者に対して、理念の伝搬が確実に行われているだろうか。新卒社員は自社の理念がきちんと言えるだろうか。
今の時代、組織づくりにおいて「多様化」が叫ばれているが、理念あっての多様化である。それがなければ、各自が目先の利益を追った勝手な行動をしてしまい、本質的な部分での判断軸がなくなってしまうからだ。

 

その次に大切なものが、その会社がその会社であるための、独自の「文化」だろう。
それは行動指針として明示されているものかもしれないし、社員間で自然発生的に生まれたものかもしれない。
いずれにしても、言語化し、社員に共有され、常にそれを忘れずに誇りに思えるような仕掛けを作っていかなければ、いつしか忘れ去られてしまう可能性がある。

 

「良き教え」「良き遺伝子」を確実に残していくには、主体的な選択と、その選択を定着させる地道な作業が必要になってくる。
何を残し、どのように伝えていくか。その分別作業は非常に大変なものであるが、組織に対し長期的な恩恵をもたらす。
結局はそれがブランドの構築になり、良きカルチャーの創造につながっていく。
こういった取り組みは企業規模に限らず、長期的な存続と繁栄を望む組織すべてに関わってくる問題であると思う。

 

自社にとって、残すべきものとはなんだろうか。一度じっくり考えてみるのも良いだろう。
変化の激しい時代の中で、消えていくもの、残されるべきものがあると思う。
日々、業務に忙殺されがちであるが、自社の本質的な良さ、強みを見つめなおしたい。

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