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虎屋に学ぶブランディング事例

2016.01.25

#イマジナ・ブランディングニュース

先日、東京表参道を歩いていた際に、以前から興味のあったTORAYA CAFÉに立ち寄った。表参道ヒルズ地下1階にあるそのカフェは、周囲の外資系高級ブランドの店舗と肩を並べ静かにたたずんでいる。「シンプルできれいな外観だな」とまじまじと店のつくりを観察していた筆者は、客の入店を待つことにしびれをきらした店員に声をかけられ、店内へと入っていった。

 

フロアは広く奥行きがあり、若い女性のグループでにぎわっていた。雰囲気は通常のカフェのように洒落つつも、どこか和を感じさせる空間となっている。和菓子の会社がやっているカフェといっても、堅苦しくなく伸び伸びと過ごせる席配置となっているため、実に居心地が良い。筆者はコーヒーとカフェオリジナルのデザートを頼み、同社の歴史に思いを馳せた。

 

TORAYA CAFÉはご存じのとおり、虎屋が運営している飲食店である。同グループの売上高は現在189億円。グループ会社に、パリにおける製造販売拠点としてトラヤフランスと、前述のカフェ事業を営む虎玄(こげん)がある。和菓子の製造販売を生業として長い歴史を歩んできた同社だが、その創業はなんと室町時代後期に及ぶ。500年近い歴史を持つ食品メーカーなのだ。

 

しかし、同グループの展開するカフェ事業やつくられる和菓子たちは、決して古くなく、むしろ独創性があり新鮮さを感じさせる。なぜ長く古い歴史を持つ虎屋が、このような新しく斬新なものを提供できるのか。その背景にある強さと価値観を探ってみたくなった。

 

前述のとおり、創業は室町時代後期なのだが、正確な年月はわかっていない。記録によると、天皇に和菓子を納入する御所御用を始めたのが後陽成天皇(在位1586~1611年)の頃とあるため、それ以前からブランドは存在していたことになる。明治2年、明治天皇の東京遷都の際、京都店はそのままに東京店を開設。戦後は百貨店等へも出店し、現在は本社、本店を東京赤坂に構えている。

虎屋に現存する最古の書物として、1695年に書かれた『御菓子之畫圖(おかしのえず)』というものがある。同社の和菓子の絵と商品名が書かれたものであるのだが、これは当時、商品カタログの役割を果たしていたらしい。こちらは国会図書館のサイトで一部を見ることができるが、同書では従来あるような饅頭や羊羹だけでなく、意匠に工夫を凝らした和菓子が多くつくられていたことが見てとれる。

 

それ以降、文献は多く残されているが、特に1805年に9代目代表がまとめ直した『掟書』という書物が非常に面白い。こちらは虎屋で働く従業員の規範がまとめられたものなのだが、その内容は現代でも十分通用する。例えば「倹約を第一に心がけ、良い提案があれば各自文書にして提案すること」「御用のお客様でも町方のお客様でもていねいに接すること、道でお会いした場合はていねいに挨拶すること」等、今存在する企業にそのまま当てはめることができそうなルールである。

 

これらの書物は、同社の強さをひも解く一つの鍵になるのではないだろうか。和菓子づくりは既存のもので満足せず、常に工夫を凝らす。また全ての社員に提案の機会を与え、御所御用を務める企業でありながらも全てのお客様を平等に扱う。今でも十分使用に耐えられる訓示だろう。

 

そしてこの驕ることのない経営姿勢は、2003年にカフェ事業に参入する際の人事にも投影されている。当初、和菓子の製造販売以外にも着手しようとなり、議論の末にカフェ事業への参入が決まったとのこと。悠久の歴史を持つ企業が直営のカフェを始めるということ自体、大胆な経営判断だと感じるが、そのプロジェクトリーダーにはなんと当時25歳の女性が選ばれたらしい。選ばれた理由は、社内で公募した際に一番熱意のあるプレゼン資料を提出したから。通常であれば、会社の歴史を十分に理解しているベテラン社員等が抜擢されそうである。このように柔軟な考えを持ち判断を下す姿勢、伝統に埋もれることなく常に新しいことに挑戦する姿勢が、歴史を背負いつつも古さを感じさせない独特の個性を形作っている。

 

同社の経営理念は「おいしい和菓子を喜んで召し上がって頂く」である。そのシンプルかつ力強い理念は、つくられる和菓子にも、社員の行動規範にも表れている。そしてそれと同時に、全ての経営判断は理念を体現するために下されるのだろう。前述のカフェ事業立ち上げにおける若手の登用に関しても、あえての動きというよりか、この理念を実現するためには妥当な判断だったのではないだろうか。考えてみれば、おいしい和菓子を喜んで召し上がって頂くために、一番熱意を持った人物に任せるというのは至極当然の話である。

 

日本一有名な和菓子メーカーから学ぶことは多い。どこよりも長い歴史を持ちつつも、どこよりも柔軟に、新しいことに挑戦し続ける。それが結局、伝統と革新性を併せ持つ、他社には真似できない独自のブランド構築に繋がっているのだろう。

 

ひるがえって、自社はどうだろうか。
「らしさ」を明確にし、他社が真似できない強みを構築する。これが実現できた企業は強い。先が予測できない困難の多い時代ではあるが、全ての企業が今一度、自社の強みを明確にし、それに沿った経営判断を積み重ねることにより、より明るい未来を手に入れることができればと思う。

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