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【特集】東ティモール紹介レポート~医療の現状~『ハード・ソフト面ともに積み重なった課題とは?』<Hot HR ニュース12月号>

2014/12/26(最終更新日:2021/12/23)

【特集】東ティモール紹介レポート~医療の現状~ 『ハード・ソフト面ともに積み重なった課題とは?』

2014年8月25日から9月13日の期間、著者が所属する学生団体HaLuz(※1)が21世紀最初の独立国である東ティモール(※2)において視察および複数のプロジェクトを実施した。
当連載では渡航中に見聞きした話を交えながら独立から12年たった東ティモールの現状を紹介している。今回からは、MDGsという2015年までに達成することを目指されている世界共通の発展目標の中で中心的な項目としてあげられている「医療 、食事、教育に関する問題」に関して、「医療」から順番に東ティモールの現状を紹介したいと思う。皆様の社会的問題への関心や企業の社会貢献事業として繋がっていければ幸いである。

▼東ティモール紹介レポート(医療の現状編)

東ティモールはまだ独立後まもなく、12年しか経っていないということは以前から紹介させていただいている。そして、様々な問題を抱えているともわかっていただけたと思うが、特に医療は他の問題よりも成長に遅れをとっている分野であると言える。
今回は、東ティモールの医療の現状を設備などのハードと人材などのソフトの面からとらえるとともに、MDGs(※3)の進捗状況について紹介していきたい。

▼医療課題(ハード編)

多くの国において、都市部よりも地方部の方が多くの面で問題を抱え、設備環境が整っていないが、東ティモールの場合は、そもそも都市部も含め国全体で体制・設備が整っていない。
例として病院にある検査機器を挙げると、日本にはレントゲン、CT、 MRIなどの設備が国際的に比較しても十分な数があるのに比べて、 東ティモールに設備されている機材は国全体でレントゲンが3つ、CTが1つあるのみでMRIは設置されている場所がない。
そのため、そのような設備の必要な治療を行う際は近隣の設備を持った国(オーストラリア・インドネシア・シンガポール)まで患者を医療専用機で輸送し、そこで治療を受けさせる事となる。
しかし、大使館によると国外で治療を行う際の輸送費は1,000~2,000万円かかるようであり、現状では、東ティモールの人々にとって高度な治療を受けることは実質不可能である。骨折すら状態によっては治すことができないという設備状況なのだ。

 

地方部の病院の規模は小さいものの、総合的な医療を提供している病院が多く、普段は住んでいる地域にある病院を訪れ、緊急の時のみCTなどの設備がある首都ディリの国立病院に行くという人が多い。
ちなみに、公的な病院では東ティモール国民は治療費が無料であり、薬などを処方する場合はその費用のみ支払うという仕組みになっている。

▼医療課題(ソフト編)

次に、医療に携わる人材について記したい。東ティモールでは病院のない村が多い。そんな村では近隣の村の病院まで行くことも多いという現状だ。その原因としては病院の数に加え医者の数が全く足りていないことが大きいようだ。
そんな中、2003年より南南協力(「南:途上国」同士の支援関係)として始められたキューバからの医療支援が徐々に実りの時を迎えてきた。
今年度、キューバにて研修を受けてきた東ティモールの医師たちおよそ200人が帰国し、病院に配属されることとなった。しかしそれでも、全国の医師の数は未だに400人程度といわれ、そのうち半分の200人は研修から帰国した研修医レベルの医師である。このように、状況は上向きになりつつあるが東ティモール全体では未だ満足と言える水準ではない。
一方、このキューバによる協力は安定的に東ティモール医師を輩出しているだけでなく、東ティモール国内におけるキューバ人医師の医療従事により状況の改善に大きく繋がっていることから南南協力の成功事例としてあげられている。

▼東ティモールのMDGsの達成状況

MDGsのターゲットの中で、医療に該当するものとして以下のものが挙げられる。

 

・ターゲット4A:2015年までに5歳未満児の死亡率(乳幼児死亡率)を3分の2減少させる。
・ターゲット5A:2015年までに妊産婦死亡率を4分の3減少させる。
・ターゲット6A:HIV/エイズの蔓延を2015年までに阻止し、その後減少させる。
・ターゲット6B:2010年までに、HIV/エイズ治療薬への普遍的アクセスを達成する。
・ターゲット6C:マラリア及びその他の主要な疾病の発生を2015年までに阻止し、その後発生率を下げる。
・ターゲット8E:製薬会社と協力し、開発途上国において、人々が安価で必須医薬品を入手・利用できるようにする。

 

これらにおいて東ティモールで今まで特に重要課題とされてきたものに、5歳未満児死亡率とマラリアの発生率がある。
東ティモールは、合計特殊出生率(1人の女性が生む平均の子ども人数)が5.30人(2012年:世界銀行)と非常に高く、日本の1.41人(2012年)と比較すると大きく差があることがわかる。そのため、人口の46%を15歳未満の若年層を占めているという状況にある。

 

その一方、5歳に達する前になくなる子どもの死亡率の高さが大きな問題となってきた。

■5歳未満児の死亡率(出典:世界銀行)

この指標は生まれてから5歳までの間になくなる出生1000人に対する死亡数を表し、1985年当時は日本の数値が7.5人であったのに対し、東ティモールはなんと213.2であった。
その後改善が進み右肩下がりとなって世界平均に近づいてきている(57.0人:2012年UNDP)。
未だにわずかに世界平均を上回っているが、ユニセフの発表によると1990年から2011年までの期間で5歳未満児の死亡率を改善した割合の上位国として東ティモール(-69.9%)が挙げられている。
要因としては、母親グループを作り母乳育児推進、離乳食の作り方などの指導を行ったことが主なものとして挙げられる。今までは離乳食という概念がなく、他の家族と同じものを無理に食べさせ消化不良を起こした結果、栄養失調にかかる子どもが多かった。そのため、しっかりとした育児の指導や衛生的な環境づくりへの意識作りを行ったこと影響が大きいと考えられる。
また、現在は乳児死亡率の改善から、さらに家族計画(子どもの生む数やペース、避妊・衛生などに関する教育)などにも支援の方向が向いている。

 

次に、マラリアの発症に関して、2000年当時と比較してマラリアの発症率が75%も減少したことが WHO(World Health Organization)によって発表された。殺虫剤を塗布した蚊帳の配布や適切な治療を行えるようになったことが要因のようである。東ティモールは蚊によるデング熱とマラリアの発生が多く、また処方の不明な薬をマラリアの治療に使用することが多く、今まで問題となってきた。他にも、65の国内すべての郡へマラリア担当官を設置したとのことで、医療に関する課題解決が徐々に進んできていることが感じられる。

 

以上のように、まだまだ課題はあれども、十数年前に比べ東ティモールの医療関係は近隣国や国際機関による支援によって大きく改善していることがわかる。

▼PHC(プライマリヘルスケア)の重要性

これらの二つの事例からみられるのは、共に治療水準の向上が成功要因になったことはもちろん、予防的側面からの発達が大きく寄与しているという点だ。これらの健康増進や予防体制の強化のことをPHCとよぶ。
東ティモールでは、結核や栄養失調などの症状を抱える人は多く、不衛生さも要因となって下痢なども日常的に発生している。
マラリアやデング熱は抵抗力が落ちている時に発症しやすく、予防の現状が改善されれば、防げる病気・症状はたくさんあるのではないかと言われている。
2002年の独立後より、海外の機関による衛生教育や予防に関する医療体制の支援が多く行われている。その中では日本の国際機関も大きく貢献している。
このようにボトムアップ型で医療水準を上げていくことに加え、より多様な症状に対処が可能になるように医療設備を整えていくことが、今後の重点目標となるだろう。蚊帳や体温計など一般民向けの器具はソーシャルビジネスの成功例も多く、日本からの進出も多くの売り上げと社会的成果を得ることにつながるかもしれない。

 

※現在東ティモールにおける多方面での支援を企画中です。もし社会貢献事業などを考えられている企業様がございましたらぜひご連絡ください。
ご連絡先:keitakatoh1115@gmail.com

 

※1 学生団体HaLuzについて
著者が代表を務める学生団体。法政、早稲田、東京などの大学からメンバーが集まっている。東ティモールにて活動を続けており、関連団体を含めると12年の活動歴を持つ。
活動詳細はこちら↓
https://www.facebook.com/haluz2014/info

 

※2 東ティモールについて
正式名称は東ティモール民主共和国。
東南アジアに位置する人口120万人程度の島国。東経123~127度,南緯8~10度に位置し日本との時差はない。南側に位置するオーストラリアとの間にはティモール海があり、石油・天然ガスの埋蔵地となっている。
LDC(後発開発途上国)に指定されている世界最貧国の一つ。
16世紀以降ポルトガルの植民地であったが、1975年にポルトガルからの独立を果たした。しかし、隣国インドネシアによって不法な占領を受け、完全な独立(主権回復)は2002年5月20日となっている。また、第二次世界大戦中である1942~1945年の期間には日本軍による占領も受けていた。

 

※3脆弱な国家(fragile states:脆弱国、脆弱国家)とは
『「脆弱な国家」とは、制度面での能力の不足、不十分なガバナンス、政治不安、頻発する暴力、過去の深刻な紛争の後遺症など、きわめて厳しい開発課題に直面している国を指します。』
(IDA-国際開発協会HPより引用。

http://web.worldbank.org/WBSITE/EXTERNAL/EXTABOUTUS/EXTIDAJAPANESE/0,,contentMDK:21543046~pagePK:51236175~piPK:437394~theSitePK:3359127,00.html

 

 

 

編集長プロフィール
加藤啓太(かとうけいた) 法政大学キャリアデザイン大学2年生。
1年間大学を休学し、2013年6月からイマジナにてインターンとして活動。2014年4月から復学している。イマジナでは主に資料作成やHotHRメルマガの記事を作成している。学生としてアジア最貧国の一つである東ティモールの支援を行うNPO法人LoRoSHIPで活動を行っており、「タイス」という現地伝統の織物を生産するコミュニティーの支援活動と交流活動を行う。今年の夏に2度目の東ティモール渡航を実現。積極的に海外支援に取り組んでいる。

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