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社会問題から学ぶ、企業が悪に染まる可能性<Hot HR ニュース2月号>

2015/03/02(最終更新日:2020/09/30)

社会問題から学ぶ、企業が悪に染まる可能性

今回は東ティモール報告の号外編として著者が学生NGO HaLuzでの活動とは別に行っているHCR+※1という団体で行った活動に関して、企業やビジネスパーソンの行動にも共通する点が見られたため、企業の事例に関連立てて紹介させて頂きたいと思う。

 

この団体は国連などの国際機関が定める国際デーに応じて学生を中心とした一般の方々に社会問題について考える機会を持ってもらうことを目的とし、イベントを開催している。
1月27日は「ホロコースト犠牲者を想起する国際デー」であり、ナチス・ドイツによってユダヤ人を始めとする迫害を受けた人々を想起しようという記念日として呼びかけられている。HCR+は1月25日にこの国際デーに際して「ハンナ・アーレント」という映画の鑑賞会を大学生中心に開催した。

社会問題から学ぶ、企業が悪に染まる可能性

▼映画「ハンナ・アーレント」とは
この映画の題名ともなっている「ハンナ・アーレント」とはドイツ系ユダヤ人の女性で「全体主義の起原」、などの著書で有名な哲学者である。ある日、彼女はホロコースト(大量虐殺)の際に人々の移送などの指揮を行っていた人物であるアドルフ・アイヒマンという人物の裁判を傍聴し、The New Yorker誌にレポートを発表した。このレポートの中でアーレントが、アイヒマンが下した指令によって多くの罪のない人々が亡くなったが、彼は残虐な人物ではなく平凡な1人の役人である、と述べたことに対し、他のユダヤ人指導者に関する記述の誤解なども重なりナチス・ドイツ擁護として世間からの批判を受けた。この論争の中で彼女がアイヒマンの行動のメカニズムとして最後まで主張したのが「悪の凡庸さ」という考えである。

 

▼「悪の凡庸さ」について
悪の凡庸さとは、アイヒマンが指示を出したことについて「上部からの指令に忠実に従っただけだ」という趣旨の裁判中の発言を行ったことなどから、伝統的に考えられてきた利己心などによる悪ではなく、”平凡な人物が組織構造のヒエラルキーの中にいることにより、権威のあるものからの指示を思考することなく受け入れることとなり、大きな悪に加担することとなった。”というアイヒマン以外にも普遍的に起こりうる悪の可能性を指摘したものである。

▼企業における「悪の凡庸さ」の可能性について
このアイヒマンの事例は様々な実験によって試されており、ミルグラム実験※2という研究などでも効果が確かめられている。
これらの研究は経営組織学にも多く取り上げられており、様々な企業の失敗がこのような「悪の凡庸さ」によって説明されている。
過去の企業の事例より、多くの企業で共通点として見られているのが官僚制組織ということである。官僚制組織とは職務内容や規則が非常に公式化されているという点から高い効率性をもち、特に規模の経済という形で特に1900年代半ば以降多くの大企業によってこれらの組織体系が取られてきた。
利己心や、一部に有利に働くように企業内で政治的行動が取られ、それらで昇進した人物が経営の上層部を担うようになった時、意見などを口にしないイエスマンで周囲は固められる。これらの積み重なりにより不正や過ちが見過ごされ、いずれ組織は崩壊へとつながるのだ。

 

▼これらを引き起こさないためには?
これらを引き起こさぬように近年一部の企業で進んで取り入れられているのがコンフリクト(対立)である。伝統的な考え方ではコンフリクトは悪であった。しかし、幾つかの事例からコンフリクトが多様性や具体的な成果につながる可能性が見出され研究が始められた。
その後、組織に好影響を与える生産的コンフリクトというものが発見され多くの組織に取り入れられるようになった。
実際に、グループシンク(集団で考えたことがかえって多様な視点に欠けたり誤った決定をしてしまうこと)を防ぐことや、多様な意見から創造性が高められるなどの結果から、ディズニーやIBMなどの企業ではあえて会議の際に反対の意見を交え、様々な視点からの意見を集める仕組みを作っている。

 

官僚制組織でいうポジションTOPや、特定の権威ある人物に組織の進む方向づけを依存している場合、これらのコンフリクトという「対立意見」に耳を傾ける、というのは非常にハードルが高いものであろう。
しかし、自分達は何のために働いているのか、企業のミッションやビジョンを明らかにして、何が正しい判断基準となるのか、バリューを定義し、それらを社員みんなに浸透させることで、仮に特定の権威者からカルチャーに反した指示や方向付けが出されても、「カルチャーに沿った対立意見」をしっかりと発せられ企業文化を生み出すことができる。

 

現在は規模の大きな企業だけが生き残る時代ではなくなっており、特に内向きなカルチャーを持つ企業においては厳しい状況が今後ますます強まっていく。それは、今がたいへん変化に富んだ時代であり、重要なのは規模ではなく柔軟性となりつつあるからだ。
しかし、過去の成功に固執して、業績が右肩下がりになる企業がある中、自社のミッション、バリューを認識し、途絶えることのない市場のニーズに答え続けることにより数年で数倍、十数倍というありえないスピードで成長している企業が世の中には存在する。
これらの企業と同じ状況を迎えるために、自社の存在意義である理念・カルチャーなどのソフト面と、生産的コンフリクトを吸い上げるシステムなどのハード面という両面を整備し、企業を磨き続けることが必要となっているのである。これからの企業・組織は、組織の「権威」に依存せず、自社のミッションやビジョンという「文化(カルチャー)」を軸にして進んでいかなければならない。

 

※この活動では、社会人の方のご参加も募集中です。もし社会貢献事業などを考えられている企業様、社会人の方がいらっしゃいましたらぜひご連絡ください。
ご連絡先:keitakatoh1115@gmail.com

 

※1 HCR+について
それぞれ別々の学生団体から集まった4人組の活動グループ。一般の社会問題や国内・国外の特定地域における問題をベースとして人を集め、月1回のイベントや解決に向けた事業を行うことにより学生の社会問題への関心を集めること及び問題の解決を目指して活動している。

 

※2 ミルグラム実験
一般人を募り、教師役を演じてもらう。別室には生徒役の人物がいる(募った人からくじで教師役と生徒役を決めるとされているが、実験のため生徒役は全てサクラ、対象者は全て教師役)。
教師役が生徒役に質問をし、間違えると電流が流れるボタンを押し、間違えるたびに電流をあげることになっている(実際には生徒役は演技で電流のショックを受ける)。
電流はかなりの大きさに及ぶため教師役が拒否をした時に「白衣を着た権威のある博士らしき人物」が続行を指示し、一定の回数以上拒否すれば終了となる実験。アイヒマンのような上からの命令を思考せずに受けてしまうという行為の検証として行われた。
結果として、40人中25人もが準備されていた最大の電流のボタンを押した。

 

 

編集長プロフィール
加藤啓太(かとうけいた) 法政大学キャリアデザイン大学2年生。
1年間大学を休学し、2013年6月からイマジナにてインターンとして活動。2014年4月から復学している。イマジナでは主に資料作成やHotHRメルマガの記事を作成している。学生としてアジア最貧国の一つである東ティモールの支援を行う学生NGO HaLuzで活動を行っており、「タイス」という現地伝統の織物を生産するコミュニティーの支援活動と交流活動を行う。

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