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「中小企業だからできることをやる」新たな市場とブランドの作り方

2019/04/24(最終更新日:2020/09/30)

ブランディング

中小企業が、オリジナリティある商品ブランドをつくり、新たな売上の柱を築く。既存事業の依存から脱却し、新規事業、新市場でも堅調に売上を伸ばしていく。このような青写真を多くの企業が描いている。しかし、成功と言えるような実績を残す企業は、ごくわずかだ。新市場への進出は、場合によっては撤退どころか、財務面で多額の負債を抱えることもある大きなチャレンジなのだ。

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そのような厳しい世界で、社長から社員までが一丸となって新規事業に挑戦し、新たな市場でのブランドの立ち上げに成功。売上を伸ばしている企業がある。「ごちそうレトルト専門店にしきや」を運営するレトルト食品専門メーカー「にしき食品」だ。

1939年に創業したにしき食品だが、はじめから食品メーカーであったわけではない。かつては宮城県岩沼市の一角に看板を掲げる、小さな佃煮屋だったのだ。たくさんある街の商店のひとつにすぎなかった同社は、日々商売を営みながらも、佃煮屋からの脱却を考えていたという。
転機が訪れたのは1968年。この年、世界初の市販レトルト食品『ボンカレー』が大塚食品から発売された。このとき、にしき食品はレトルトという新技術に夢を抱く。そしてその7年後、レトルト釜の導入を決断し、本格的にレトルトカレーの開発を始めた。

全くの異業種への参入であったが、同社はアルミを使いパウチされたレトルトの容器を「小さな圧力鍋」と認識する。自社で開発した製品を「じっくり時間の必要な煮込み料理を」「欲しい分だけ」、さらには「長期保存できる」という点を明確に打ち出すことで、レトルトだからこその本質的な商品特性を、うまく自社のブランドに取り込み、カレー以外の製品を開発することで販売数を伸ばしていった。

にしき食品の商品にいち早く反応したのは、ファミリーレストラン。カレーはもちろんハンバーグソースやパスタソースなど、煮込みに時間のかかるソースを大量かつ同等の品質で提供しなければならないファミリーレストランにとって、にしき食品は非常に強力なパートナーとなった。
やがて、ファミリーレストランのメニュー作りから携わるようになり、にしき食品は自社にシェフを抱えるまでになる。技術力、実績、アイデアが評価され、多くの企業とプライベートブランドブランドの商品を開発するようになった。

 

順調に成長を重ねているように見えるが、この後に逆風が吹く。外食産業の市場拡大により新規参入が増え、価格競争が激しくなり、経営環境の雲行きも怪しくなっていく。そこで同社は自社ブランド「にしきや」を立ち上げ、思い切ってBtoB市場から、BtoC市場へと舵を切る。
もちろん、市場を拡げたからと行って成功が約束されているわけではない。業界の先頭を走る前述のボンカレーがあり、その他大手食品メーカーも様々なレトルト食品を発売しているため、BtoC市場では、BtoB市場以上に熾烈な競争が繰り広げられている。そこで、後発ブランドであるにしきやは、それまでのレトルトカレーの概念を壊すブランディングに着手した。

そのキーワードが、「ごちそうレトルト」だ。レトルト食品には漠然と、「健康に悪そう」「料理に手抜き感がでる」「ファストフードの印象が強く、おしゃれではない」といったイメージがつきまとう。にしきやは、「ごちそうレトルト」という、それらの固定観念を打ち崩すブランドメッセージを開発。あらたな市場を切り拓いた。

こだわったのは無添加、そしておしゃれな製品だ。企画部の齊藤幸治氏はメディアで、働く主婦や女性に向けて、「レトルトの使用は手抜きではなく、メニューが広がると考えて欲しい」と語っている。同社のレトルト製品はすべて化学調味料・香料・着色料不使用。「手抜きの罪悪感もなく、子供に安心して食べさせられるレトルト」というポジションを築いた。

またデザインにもこだわりを見せる。パッケージデザインは宮城県在住のアートディレクター・デザイナーに依頼。社長や社員の意見をベースに、モチーフからタッチ・数・色調など段階的にデザインを検証し、「家に置いておきたくなるようなデザイン」を追求した。
「以前は家にレトルト食品があることを隠したいという気持ちがあったかもしれません。だからこそ、買うときにわくわくする、家に置いておきたくなるようなパッケージにしたかった」と、齊藤氏は語る。例えば人気商品であるレモンクリームチキンカレーでは、販促的要素を抑え、外国の絵本のようなデザインをイメージ。暖かみを残しながらも、洗練された装丁は、一見するとレトルト食品のパッケージに見えない。

これらの施策は功を奏し、20代〜40代の働く主婦を中心に販売数は着実に伸びている。また同じようなコンセプトのレトルトブランドはないため、レトルト食品というレッドオーシャンにおいても、にしきやは独自のポジションを築いているのだ。

このようなチャレンジ、そしてブランディングは、多くの中小企業の参考になるのではないか。にしきや自身も成長を重ねていくなかで様々な壁にぶつかったのは確かだが、思い切りの良い舵取り、そしてブランディングを徹底したから現在があるのだ。後発の企業でも、そしてその分野で未経験であっても、オリジナリティを追求したブランドを築ける。にしきやの事例から、私たちはたくさんのことを学ぶことができるだろう。

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